あなたの隣の「ネオ・ネグレクト」“外注される”子供とは?
子育て・教育
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「衣食住不自由はなくても、親がわが子を直視しなかったり興味関心を抱けなかったりする状態」という新たな育児放棄を示す表現だという。その矢野氏に、2025年10月1日に『ネオ・ネグレクト 外注される子どもたち』(祥伝社新書)を上梓した理由を寄稿してもらった。
「ネオ・ネグレクト」という現象
「児童虐待」はその態様によって幾つかの累計に分けられる。
たとえば、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待……最近では、教育虐待という現象も注目されている。
さて、令和の親子関係を観察していると、私は上述した類型には決して組み込めない新種の現象が散見されるように感じている。
それが「ネオ・ネグレクト」である。
どういう意味か? 私は「ネオ・ネグレクト」を「衣食住に不自由はなかったとしても、親がわが子を直視することを忌避していたり、興味関心を抱けなかったりする状態」と定義している。
え? そんな現象には心当たりがないけれど…。そんなふうにお感じになる人が多いことだろう。実際、私は2025年10月1日に刊行する『ネオ・ネグレクト 外注される子どもたち』(祥伝社新書)の執筆に際し、教育関係者や子をもつ親、小児科医などに取材を重ねた。取材の冒頭にこの用語と定義について伝えると、「え? そんなことってありますか」と必ずといって良いほど戸惑いが見られる。しかし、私が具体的事例をあげると、「なるほど。ネオ・ネグレクトは確かに身近に存在しますね」という回答が得られる。「ネオ・ネグレクト」とは、それがそうとは認識されづらい現象なのだ。
広域的に観察される「ネオ・ネグレクト」
たとえば、習い事漬けになっている少年少女がいたとする。
彼ら彼女たちの成長を願って、結果的に1週間のスケジュールにたくさんの習い事が組み込まれているならまだ良い。そうではなくて、「親が忙しいから」「どこでも良いので、子供をどこかへ預けておきたい」という大人の論理を優先し、当人である子供が「たらい回し」にされてしまっている。皆さんの周囲に思いあたる事例がないだろうか。
上述したのはあくまでも一例であり、「ネオ・ネグレクト」はさまざまな態様で現れる。
私は自身の携わる中学受験の指導現場だけではなく、公立中学校・私立中高一貫校の教員、東京湾岸タワマンエリアの住人など、多岐に亘る範囲で取材をおこなった。その結果、令和の時代に「ネオ・ネグレクト」は広域的に観察される現象であることを確認したのだ。
「ネオ・ネグレクト」という表現への反響
近年は少子化が進行していることは誰しもが理解できるだろう。
少子化ということは、1家庭当たりの子どもの数は少なくなっていて、子どもたちひとりひとりに親の愛情が注がれてもよいはずなのに、なぜ「ネオ・ネグレクト」が散見されるのだろうか。
私は自身のSNSで本書のタイトル、表紙と帯を公開した。すると、たちまち「ネオ・ネグレクト」という表現に対して、肯定的あるいはこれに反駁するコメントが数多く見られた。この反響の大きさには私自身驚いている。いずれにせよ、良くも悪くも自らの周囲で「ネオ・ネグレクト」について思いあたる節がある。そのことの証左ではないか。
たとえば、こんなコメントが目に入った(コメントについては一部加筆修正している)。
「育児と仕事を両立するためタイパ(タイム・パフォーマンス)や効率を重視することを『現代的で優れた母親の姿』として自負してきたが、気づかぬうちに『ネオ・ネグレクト』の側に傾く危険性がある」
「ネオ・ネグレクト状態の子を指導したことがあるけれど、不安定な性格で、人から否定されることにとても脆かったことを記憶している」
「ネオ・ネグレクト、もはや共働きはやめて昭和の時代に戻ったほうが良いのではないか」
「土曜日・日曜日にワンオペ(ワン・オペレーション)するくらいなら、どこかへ外注したほうが子のためになると思ってしまう。それを『ネオ・ネグレクト』ということばでまとめてほしくない」
「ネオ・ネグレクトはありそう。とにかく忙しすぎる。子供に関心が向かないなんて親子双方不幸だと思う」
この「ネオ・ネグレクト」という私の造語に対して、肯定的・否定的なコメントを一部紹介したが、どれも軽々に反論できないものばかりである。
ただ、ひとつ明確なのは、「ネオ・ネグレクト」の主犯は個人ではないということだ。令和の日本社会の構造の歪みが背景にある。この点については上のコメントに目を通しただけでぼんやりと理解できるのではないか。本書では「ネオ・ネグレクト」の具体的事例に留まらず、その背景事情に踏み込み、私たち大人ができることについて提案している。ぜひ手に取ってほしい。
矢野耕平
中学受験指導塾「スタジオキャンパス」代表で、『中学受験のリアル』(KADOKAWA)『令和の中学受験』(講談社)、『ことばの裏側図鑑』(文英堂)など多くの著書でも知られる。
《編集部》