こんにちは、再春館製薬所の田野岡亮太です。
私は研究開発部に属し、さまざまな商品に携わってきました。その過程で、たとえば漢方原料が土地土地で少しずつ性質を変えること、四季のうちでも変わることを知り、やがて人間の心身そのものが気候風土に大きく影響を受けていることに深い興味を持つようになりました。中医学を学び、国際薬膳調理師の資格も獲得、いまもまた新たな活動を続けています。
1年に二十四めぐる「節気」のありさまと養生について、ここ熊本からメッセージをお送りします。
【田野岡メソッド/二十四節気のかんたん養生】
秋の味は「辛み」。でも、控えめにしたほうがいいのです、その理由は
中医学では「秋は辛みがおススメの季節」と言われます。辛い味がいいですよ、そう言われると、不思議と「ラーメンに唐辛子を真っ赤になるまで入れている人」を想像したりします。それは…中医学の解釈からは少し外れて西洋医学的な説明で恐縮ですが、脳内β-エンドルフィンというホルモンを分泌させて気分を高めたい人のサインかもしれません。
ストレスなどで気が固まってしまった場合の「辛みで気の固まりを通す」働きとして解釈することもできますが、今回は「秋の季節の辛み」ですので、その意味ではこの働きは中医学が伝えたいこととは少し異なります。中医学が秋に「辛み」で伝えたい機能は、毛穴を開閉する働きです。
唐辛子で真っ赤になったラーメンを食べている人は、頭皮の毛穴がすっかり開いて大量の汗をかいている…そうなんです。辛みの働きは毛穴を開くことになります。
暑かったり湿度が高いと毛穴が開いて汗をかきます。いっぽう、乾燥を感じたり体表温が下がったりすると毛穴を閉じて体温の流出を防ぎます。毛穴は体温の調節を行う働きをしています。毛穴のもうひとつの役割として「汗で体表を潤す」という働きがあります。寒くて乾燥していると毛穴は閉じたままになるので、皮膚の乾燥はますます進んでしまいます。皮膚と肺はどちらも大気中の空気と触れていて、「潤っていると心地良い」という似た性質があるので、肺の機能は皮毛(ひもう:皮膚と髪の毛以外の体毛)の栄養を補うと中医学では捉えています。肺と毛穴は密接な関係があるということですね。
その延長で、「肺の変調は“毛穴”にあらわれる」とも中医学は捉えています。空気が乾燥し始める秋は、潤っていることが心地よい肺の機能にとっては嫌な季節です。また、空気の冷え・乾燥は肌にとっても嫌なことで、毛穴を閉じて体温が逃げないようにしますが、その分体表は乾燥が進みます。毛穴を適度に閉じて適度に開く、それを伝えたい言葉が「秋の味は辛み。でも、控えめに。」になります。皮膚呼吸という言葉がありますが、もしかすると皮膚、毛、毛穴は肺の機能とつながっていると考える中医学がベースとなっているのかもしれませんね。
秋に摂りたい「肺に優しい」食材。思い浮かぶのはどんなもの?
秋に摂りたい“肺の機能にうれしい食材”でおススメなのは、にんじん、梨、からし、高菜、メープルシロップ、蓮根、ちんげんさいなどが挙がります。
これらの“肺の機能にうれしい食材”を使ったおススメレシピの1つ目は「にんじん・梨・高菜のメープルからしみそ和え」です。秋におススメの味である“辛み”は控えめにと記載しましたが、からしはおでんを食べる時ぐらいしか登場シーンがない…とも思い、からしを使ったレシピを考案してみました。
作り方は、まず“高菜炒め”を作ります。お漬物として販売されている高菜漬けを水で洗い、しっかり水気をとり約1cm幅に切ります。生姜(1片)はみじん切りにします。フライパンにごま油をひいて高菜を炒め、生姜のみじん切り、酒(大さじ1)、みりん(大さじ1)、きび砂糖(大さじ1)、鶏ガラ粉末(大さじ1)、しょうゆ(小さじ1)で味付けをします。
次に“辛子和え調味料”を作ります。ボウルにからし(大さじ1)を入れて、メープルシロップ(大さじ1)で溶きます。これに、みりん(小さじ2)、しょうゆ(小さじ2)、酒(大さじ1)、鶏ガラ粉末(小さじ1)を加えて混ぜ合わせます。
にんじん(1本)は皮をむいて細切りに、梨(1/2個)は皮をむいて長さ4cm程度×5mm角の細切りにします。フライパンにごま油をひき、にんじんを炒めます。にんじんがしんなりしたら、高菜炒め(大さじ2)、梨を入れ、辛子和え調味料を加えて全体になじませたら、器に盛りつけて上から白ごまをかけたら出来上がりです。
からしは「肺を温めて、辛みで詰まりを通す」働きが期待できます。このからしを「肺と大腸に潤いを補い、双方の作用を助ける」働きが期待できるメープルシロップで溶きましたが、辛みと甘味から苦味が感じられるようになったので、みりん・鶏ガラ粉末で味を調えました。和えたにんじんには「身体に潤いを補い、上がった気を降ろして肺の呼吸(粛降:身体の下に向けて散布する作用)を助ける」働きが期待でき、梨は「身体に潤いを補い、乾燥と咳を鎮める」働き、高菜には「体表の毛穴を開き、肺の呼吸(宣発:身体の上や外に向いた作用)を助ける」働きが期待できます。高菜と人参を合せることで、肺の働き(宣発と粛降)をセットで助けることが出来ると思い組み合わせてみました。
からし蓮根に見えますが、ちょっと違うのです。秋に嬉しい秘密とは
2つ目も肺の機能に嬉しいレシピとして「梨みその蒸しからし蓮根」を紹介します。熊本には郷土料理“からし蓮根”があります。蓮根の穴にからし味噌を詰めて、卵黄やウコンなどを混ぜた衣をつけて油で揚げたものです。揚げ物は胃に負担をかけてしまうことが危惧されるので、今回は“蒸し料理”で作ってみました。
作り方は、まず“梨からしみそ”を作ります。蓮根(小1個)と梨(1個)の皮をむいてすりおろし、水分を軽く絞って合せます。からし(小さじ4)に梨果汁(大さじ1)を入れて混ぜ合わせて辛みを出します。ここに鶏ガラ粉末(小さじ1.5)、きび砂糖(小さじ1)、みりん(小さじ2)、白みそ(大さじ4)、小麦粉(大さじ3)を加えてよく練ります。
次に蓮根を準備します。すりおろしたものとは別に、蓮根(小2個)の皮をむき、鍋に蓮根が浸るくらいの水とりんご酢(大さじ1)を入れて4~5分茹でます。この蓮根に“梨からしみそ”を詰めます。(梨を入れているためか少し緩いので、スプーンですくい取って蓮根の穴に少しずつ押し込んでいく感じです。)詰め終えたら、蓮根の側面に梨果汁をつけて片栗粉をまぶし、梨からしみそで蓮根のまわりも覆ってラップで包みます。(ラップに梨からしみそを蓮根の幅で塗り、蓮根を置いて海苔巻きのように巻くと上手にできます。)ラップの両端を輪ゴムでしっかりとめて約20分蒸します。輪切りにして、茹でたちんげんさいの上に並べたら出来上がりです。
蓮根は生と加熱状態では働きに変化が生じると言われますが、今回は加熱しているので「食欲を促して、肺と関係する腸のコンディションを整える」働きが期待できます。これに「肺を温めて、辛みで詰まりを通す」働きが期待できるからしと、「身体に潤いを補って、乾燥と咳を鎮める」働きが期待できる梨を合せてみました。熊本の郷土料理をヒントに、からしと蓮根の“蒸し料理”に出来たことと、「肺・皮膚・毛・毛穴のコンディション」に秋が旬の梨を使った“梨からしみそ”で働きかけられるポイントがおススメのレシピです。
熊本はさまざまな食の力を感じとる文化をはぐくみ続けたのだな、と思います
熊本にいると、食材のほかにもいくつかの食文化にめぐり合うことが出来ます。日本酒に欠かせない酵母で、酸が穏やかで華やかな香りを作ることができる酵母「きょうかい9号」は熊本県が発祥の地です。また、熊本には北部と南部で異なる食文化をたどってきた名残があります。熊本県北部地域は細川藩の影響で日本酒の蔵元が多く、南部地域は海外交易を盛んに行っていた相良一族に伴う影響で焼酎文化が根付いています。それと、熊本には味噌天神という愛称で呼ばれる、日本で唯一の味噌の神の神社があります。このように、食と密接に神の力を感じ取る文化だったのだと思います。
写真は真西の方角に沈む太陽です。秋分は太陽が真西に落ちていきます。再春館ヒルトップではちょうど大木の向こう側に夕陽が見える頃で、業務終了後の帰宅の途につく18時過ぎにこのような夕陽に出会うことが出来ます。秋分の夕陽を見るのは今年で19回目になります。来年も健やかに20回目を見たいと思います。