更年期に私たちが太る原因、もしや「オキシトシンの減少」も影響してる?意外なつながりを医師に聞く | NewsCafe

更年期に私たちが太る原因、もしや「オキシトシンの減少」も影響してる?意外なつながりを医師に聞く

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更年期に私たちが太る原因、もしや「オキシトシンの減少」も影響してる?意外なつながりを医師に聞く
更年期に私たちが太る原因、もしや「オキシトシンの減少」も影響してる?意外なつながりを医師に聞く 全 1 枚 拡大写真
  

更年期という言葉が持つネガティブなイメージを少しでも減らすため、オトナサローネはこれまで数多くの更年期関連記事をお届けしてきました。欧米人に比べれば私たち東アジア人の症状は軽いと言われますが、それでも症状には大きな個人差があります。

更年期症状は非常に多岐に渡り、イライラする、汗が出るなどよく知られた症状のほかにも、肩こりや皮膚の痒み、睡眠の質の低下、手指の痛みなど「そんなものまで?!」という症状に悩む人も増加します。中でも増えるのが「体重増加」。更年期太りを解消しようとダイエットに取り組んでも、なかなか成果が出にくいと感じている方も少なくありません。

女性医学の中でも生殖内分泌がご専門である徳島大学医学部産科婦人科学分野の岩佐武教授に、前半記事では非ホルモン製剤で、ホットフラッシュの抑制が期待できる新しい治療薬「ベオーザ」についてお話を伺いました。

この後半記事では、引き続き岩佐先生に、「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシンの作用と更年期との関係、さらに未来に登場するかもしれない夢の「更年期太りを解消する薬」についても見解を伺いました。

「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシン、いったいどういう物質?

――前編記事に続いてこの記事でも引き続きよろしくお願いします。さて、私たちはオキシトシンを漠然と「幸せホルモン」「愛情ホルモン」と呼んでいますが、そもそもオキシトシンとはどのような物質ですか?

オキシトシンは脳の視床下部でつくられるホルモンで、赤ちゃんに授乳するときや、信頼できる人と会話しているときなど、人とのつながりを感じる場面で分泌が高まるのが特徴です。最も知られているのは母乳分泌にまつわる作用だと思いますが、人の健康の基礎を作り、社会性を育くむホルモンの一つと言えます。

■分娩・授乳に関する作用

・母乳を出やすくする

・出産時に子宮を収縮させる

■体に対する作用

・脂肪のつきすぎを抑えて肥満を防ぐ

・血糖値を整え糖尿病を予防する

・筋肉量を維持し、しなやかな体づくりをサポート

・骨を丈夫にし、骨粗鬆症のリスクを下げる

・長寿につながる作用

・海馬の神経細胞の新生を促進

■心への作用

・人への信頼感や親近感を高める

・相手の気持ちを読み取る力をサポート

・母性や思いやりを引き出す

・不安やストレスを和らげる

・依存症の改善に関与する可能性

・自閉症症状の改善の可能性

――元々知られていたオキシトシンの作用は妊娠出産にまつわるもので、「乳汁分泌を促進するから、妊娠出産のホルモン」というような捉え方をされていた?

そうですね。脳で作られたオキシトシンには、脳内にとどまるものと血液中に出ていくものがあります。血液中に出たオキシトシンは母乳分泌や子宮収縮を促します。簡単に言えば、オキシトシンとプロラクチンが連携して乳汁が作られるのです。

また、子宮収縮を引き起こして分娩時の陣痛を促する一方で、出産後は子宮を元に戻す働きもあります。これらは古くから知られている作用で、体や心に関する作用はあとから見つかっていったものです。

――上のリストには「脂肪のつきすぎを抑えて肥満を防ぐ」という項目があります。更年期になると「太るなぁ」と感じる人も多いですが、オキシトシンの低下も関係していますか?

関係する可能性はあります。更年期に入ると、女性ホルモンの代表格であるエストロゲンが急激に減少します。女性ホルモンが低下すると、それに連動するように脳内でつくられるオキシトシンの分泌も減少します。さらに、食欲が増え代謝が落ちる現象も見られます。その結果、肥満につながることはありえます。

つまり、「エストロゲンが低下する、脳内のオキシトシン産生が低下する、肥満などのリスクが高まる」という流れです。

オキシトシンが肥満を抑制することは動物実験でも分かっています。マウスのエストロゲンが減りオキシトシンも減少すると、食欲が増し、代謝が落ち、肥満が進みます。更年期女性でも同じことが起きていると予想されますが、人間の脳内の物質を調べることは難しいため、あくまでも仮説の段階といえます。

また、オキシトシン自体には、食欲を抑える作用や、甘いものを欲する気持ちを抑制する作用、代謝を上げる作用があります。つまり、オキシトシンが増えることで逆に肥満が抑えられる可能性があるのです。

オキシトシンが減る更年期世代は「優しくなくなってしまう」のでしょうか?

――エストロゲンが減ることでオキシトシンも減少する、いわば玉突きのような関係なのですね。更年期後の女性は「愛情ホルモン」が減ると「優しい人」ではなくなってしまうのでしょうか?

優しくない人になるかどうかは分かりませんが(笑)、エストロゲンが減りオキシトシンも不足すると、不安やイライラなどの症状が出やすくなることは理論上あり得ます。

動物実験ではオキシトシンが抗ストレス作用を持つことも報告されています。そのため、将来的には「更年期に精神的な症状があるのでオキシトシンを補充してみよう」という使い方も想定されます。

そもそもオキシトシンは環境の影響を受けて増減しますから、周囲との関係性がよければ増える傾向にあります。鶏と卵の話で、更年期にオキシトシンが低下している場合、エストロゲンの低下のみならず、心理面においても不安定にならざるを得ない環境にいるかもしれません。そうした側面からも研究が進む可能性があります。

――更年期や閉経後に、オキシトシンを増やす薬剤があれば更年期以降の肥満解消も期待できますか?

確かにエストロゲンはさまざまな臓器において、栄養代謝機能に対して良好な作用を及ぼすことが知られています。更年期以降ではエストロゲンが低下するため、これらの作用が失われ、脂質代謝異常や糖尿病などのリスクが高まります。閉経後、エストロゲンが下がって肥満になった場合にオキシトシンが有効だという説があります。

なぜエストロゲンではなくオキシトシンかと言うと、すべての人がエストロゲンが減ったからといって「エストロゲンを補充しましょう」と推奨されるわけではありません。エストロゲンは血栓など副作用の問題を持ち、禁忌もあるうえ、ホルモン補充療法はあくまで更年期症状の改善目的で行うもので、代謝改善のために行うものではないからです。

そのため、「脳内で働く物質」にピンポイントで働きかける発想から、将来的にはオキシトシンそのものを補充する方法が検討される可能性があります。エストロゲンを補充するのではなくオキシトシンを補充することで、太る原因のひとつを改善できるのではと考えられています。

「ならばぜひ、オキシトシンを補充したい!」そんな治療はすでにあるんでしょうか?

――オキシトシンを使った薬剤は、すでに存在するのですか?

はい。自閉スペクトラム症においては、すでに鼻に噴霧する経鼻スプレー製剤が研究で使われ「オキシトシン点鼻剤による対人コミュニケーション障害の改善」が報告されています。

また、経鼻スプレー製剤は、ヨーロッパでは授乳促進の目的で使用されることがあるようですが、日本ではまだ導入されておらず、更年期や肥満に対して製薬会社が治験を行うかどうかは、現時点では明らかになっていません。

どうしても製薬会社が優先的に研究を進める領域とそうでない領域があるため、その違いが影響しているのだと思います。

とはいえ、オキシトシンはすでに長年に渡って陣痛促進薬として点滴で投与されてきた実績を持っています。今のところ末梢投与で大きな問題は報告されておらず、そういった安全性の高さもオキシトシンの大きなメリットとされています。

――なるほど、知らない間に私たちも恩恵にあずかっていたのですね。それを肥満治療に応用することはないのでしょうか?

病的な肥満に対してオキシトシンを抹消投与するよりも、他の薬剤を使用するほうが効率が良いので、今のところは使われていません。

たとえばGLP-1受容体作動薬、ゼップバウンドやウゴービという名前で知られる薬剤のほうがより強力で、現状では肥満治療にはそちらが選択されます。オキシトシンは「もともとあるものを補充する」という性質で、GLP-1のように「何かをブロックする」わけではありません。そのため効果は穏やかで、病的な肥満の治療には少し弱いといえるでしょう。

オキシトシンはあくまで健康な状態で使い、効かせるとしたら点鼻薬になると考えられますが、現時点では更年期治療に用いられていないと思われます。

いまできることで応用したい場合、もしかすると「漢方で高める」こともできそう?

――オキシトシンは男性にも良い作用がありますか?

はい。オキシトシンは男性にも分泌されており、女性と同様に心身への良い作用が期待できます。更年期に関しては、エストロゲンとオキシトシンの関係についてご説明しましたが、肥満に関するオキシトシンの作用については、男性を対象とした研究も行われています。

――オキシトシンを増やすためのサプリメントなどはないのでしょうか?

オキシトシンそのものを成分としたサプリメントは、現時点では流通していないと思われます。一方で、加味帰脾湯(かみきひとう)という漢方薬を用いて体内のオキシトシンを高める試みも研究されています。ただし、いずれもあくまで研究段階であり、確立された方法ではないことを理解しておく必要があります。

つづき>>>もう更年期の「ホットフラッシュ」を我慢しなくていい!?非ホルモン製剤のホットフラッシュ治療薬「ベオーザ」に期待が集まるこれだけの理由

お話/徳島大学大学院医歯薬学研究部 産科婦人科学分野 教授 岩佐武先生

産婦人科専門医・指導医、医学博士。2002年徳島大学医学部卒業。同大学病院地域産婦人科診療部特任助教、米カリフォルニア大学バークレー校、徳島大学病院地域産婦人科診療部特任准教授、同周産母子センター講師などを経て、2020年から現職。生殖医療専門医、内分泌代謝科専門医・指導医(産婦人科)、女性ヘルスケア専門医。

*1 Tomida M.et al,  Vasomotor symptoms, sleep problems, and depressive symptoms in community-dwelling Japanese women.J Obstet Gynaecol Res.,2021 (PubMed)

*2総務省「人口推計」2025年3月確定値

*3 Samuel Lederman et al, Fezolinetant for treatment of moderate-to-severe vasomotor symptoms associated with menopause (SKYLIGHT 1): a phase 3 randomised controlled study,Lancet,2023 (PubMed)


《OTONA SALONE》

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