明治時代、武士の時代が終わった世を舞台にした本作は、怪談話が好きな、ちょっと変わった女の子・松野トキと外国人の夫・ヘブンが何気ない日常を歩む夫婦の物語。
北川が演じるのは、松江でも随一の名家に生まれ、大勢の女中たちに囲まれながら何不自由なく育った雨清水タエ。凛とした気品と厳しさを兼ね備え、トキ(高石)にも礼儀作法やお茶など武家の娘としての教養を厳しく教えてきたのだが…。
「タエの登場シーンは朝ドラというより大河みたい」
――出演が決まった時の感想は?
朝ドラにはご縁がないんだろうなと思っていたので、お話しをいただいた時は「えっ、朝ドラですか」とびっくりしました。若い頃、すごく出たくてチャレンジしていたので、とてもうれしかったです。
ただ、今は子どもが2人いるし、撮影場所が東京ではなく大阪で。撮影期間も長いので喜びと同じくらい家庭と両立していけるのか不安があったのですが、夫やお互いの両親が協力すると背中を押してくれました。演出の村橋(直樹)さんは大河ドラマ「どうする家康」でもご一緒しました。一回ご一緒した方から声がかかるのはすごくうれしいです。タエの登場シーンは朝ドラというより大河みたいで、「あれ? 朝ドラって聞いてたんやけどな」と思いました(笑)。1人で大河をしている感じも面白かったです。

「もし独り身だったら切腹していたはず」
――演じられる雨清水タエさんはどんな役?
タエは自分が雨清水家の人間であることをすごく誇りに思っている、王道の武家の娘です。家を継ぐ人の支えとなって家を守っていくことへの誇りが強いので、そこは大事に演じようと意識しました。
時代が変わり、夫の傳(堤真一)も亡くなって働かなくてはいけなくなりますが、突然言われても生活能力がないし、やり方が分からないし、そもそもやりたくもなかったのではないでしょうか。誇りを捨てて泥臭くお金を稼ぐなんて、タエにとっては死ねと言われたのと一緒。もし独り身だったら切腹していたはずです。
でも、三之丞(板垣李光人)を野たれ死にさせるわけにはいかないので、食べさせていくために物乞いをして生きているんです。間違った形であれ、親としての愛情を持っているのもタエの魅力的だと思うので、そこをうまく演じられたらいいのかなと思います。
長男を亡くし、次男は出奔。生きてくれている三之丞をなんとか立派に育てたい一心で、施しを受けても下げられなかった頭を下げられるようにもなりました。だけど、物乞いでも誇りを持つのはタダじゃないですか(笑)。なので、かっこ悪いかもしれないけれど、この先どうなったとしても誇りは捨てずに持ち続けようと思います。その誇りは三之丞にもどこかで持っていてほしいですね。――印象的だったシーンは?
第3週15回で三之丞に「手放した分愛おしくなるなら、だったら私も他所で育ちたかったです」と言われたときは、いかに間違った育て方をしていたのかを目の当たりにして愕然としました。あんなに三之丞を追い込んでいたとは、親としての呵責を感じましたね。傳さんの「何を言うんじゃ、三之丞」というセリフも台本よりずっと切実な響きを持っていました。
三之丞役の板垣李光人さんは、彼が17歳で初共演した時から冷静で堂に入っていて中身が30~40歳ぐらいの風情。今回はもう本当に三之丞としてそこに息づいているので、私は彼の表情や細かい芝居を殺さないように存在できたらと思っています。
傳役の堤真一さんはずっとドラマで拝見していた方なので夫婦役なんて信じられませんでしたし、本当に光栄でした。初共演でしたが堤さんが合わせてくださったおかげで、傳とタエの連れ添った夫婦の雰囲気も出せた気がします。タエの方が家柄が上なので「傳」と呼び捨てにしていましたが、家々が決めた結婚だとしてもタエは本当に傳を愛していたことが台本の端々から感じられました。――生みの親であるタエはトキに対してどんな気持ちを抱いている?
あの時代なのでトキについてはもう気持ちが割り切れていると思います。子どもが生まれない家にはたくさん生まれたところから渡し、家の力を強くすることが大切だとタエも教えられてきたはず。過去に私が演じてきた武家の娘もそうでした。傳さんも死に際に「わしとおタエの子ではない」と明言していましたし、タエもその通りだと思っているのではないでしょうか。
もちろん母性やトキを手元に置いておきたい気持ちもあったと思いますが、松野家を途絶えさせるわけにもいきません。愛情を持って育ててくれる親族にお渡しした以上は口出ししないのがルールですし、おフミさん(池脇千鶴)に失礼になるので「産んだお母さんは私」という空気だけは出さないように気にしながらやっていました。「タエなりに諦めず、なんとか生きようとする姿を見守って」
――「ばけばけ」の見どころと視聴者の皆さんへのメッセージを。
ふじきみつ彦先生の脚本は深く描く部分と跳ねる部分のバランスが良く、真剣にやるところはやるし笑わせるところは笑わせるので、そのメリハリがとてもおもしろい作品になっていると思います。
豪華すぎるおばという感じで登場したタエは物乞いとなりましたが、やはり人間は危機に直面したときの生き方が大事。死にたいところを死なず、タエなりに諦めず、自分と向き合いながらなんとか生きようとする姿、そして息子を生かせようとする姿を見守っていただけたらうれしいです。この先どんな話になるかまだ私にも分かりませんが、タエと三之丞の親子関係にどこかで雪どけが来ることを信じながら頑張ります。
連続テレビ小説「ばけばけ」は月曜から金曜8時~NHK総合ほかにて放送中。※土曜は1週間のふり返り



