
*TOP画像/歌麿(染谷将太) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」44話(11月16日放送)より(C)NHK
「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」ファンのみなさんが本作をより深く理解し、楽しめるように、40代50代働く女性の目線で毎話、作品の背景を深掘り解説していきます。今回は江戸時代における「男色」について見ていきましょう。
男性同士の恋愛や性関係に寛容な江戸時代
「べらぼう」には男が抱く男への切ない恋心が描かれてきました。平賀源内(安田顕)が抱く歌舞伎俳優・瀬川菊之丞への切ない一途な想い、歌麿(染谷将太)が抱く蔦重(横浜流星)への複雑な想い…。
少し前に、歌麿自身も似たようなことを口にしていましたが、人は相手が異性だから、あるいは同性だからという理由だけで好意を抱くわけではないと思います。それゆえに、人の恋心は複雑で、計り知れないものなのかもしれません。
江戸時代においては男同士の恋におおらかであり、男色を隠すことなく、謳歌する人も庶民や将軍など階層にかかわらず多くいました。加えて、今であれば、成人男性が少年に恋心を抱けば批判的な眼差しを向けられがちですが、少年愛は当時としておどろくことではありませんでした。江戸っ子たちは現代と比べてさまざまな部分でおおらかでしたが、性に対してもおおらかだったのです。
日本における男色の歴史は僧侶の世界から始まりました。僧侶は妻を持つことはもちろん、女性との性の営みが禁止されており、江戸幕府は犯罪として扱っていました。女性と性行為が認められなかった僧侶は男性と性行為を営んでいたのです。
また、蔦屋重三郎より約100年前の時代を生きた江戸幕府第3代将軍・徳川家光は、男色を好んだと伝えられています。忠臣である酒井重澄(さかいしげずみ)を寵愛し、重澄の屋敷に夜な夜な忍び込み、性的な関係を持ったという噂もあります。
さらに、蔦重と同時代を生き、エレキテルの発明をした平賀源内も男色で、美少年を愛した話はよく知られています。本作同様、彼は大人気の女形、二代目・瀬川菊之丞にも恋心を抱いていました。
男の性を男に売る陰間(かげま)茶屋とは?
陰間茶屋とは江戸時代に存在した男性客への男性(陰間)による性的サービスを提供する茶屋で、現在の東京都の日本橋人形町周辺に多く所在しました。「吉原細見」ならぬ「江戸男色細見」も出版されるほど、江戸っ子にとって身近なものでした。
客は陰間からサービスを陰間茶屋で受けるのではなく、近くの料理茶屋の奥座敷で受けるのが一般的でした。今でいう、デリヘルのようなシステムともいえそうです。
陰間の揚代は約3時間で金一分でしたが、酒宴の料金も加わるため、女郎と遊ぶよりも割高だったといいます。ちなみに、陰間茶屋にとって僧侶は優良顧客だったといいます。僧侶といえば、前述のように女性との性行為が禁じられ、ストイックな暮らしを営んでいたイメージがありますが、彼らは陰間とひっそり遊んでいたのです。
ちなみに、陰間の多くは遊女同様に、幼い頃に借金の形として親に売られてきた少年たちです。彼らの中には貧しい武士の家に生まれた二男、三男も多くいました。幼い頃から、客にサービスを提供するための技を教え込まれます。そのほか、夜の勤務に慣れるための厳しい訓練も行われました。さらに、体臭対策のために食事にも気を付けていたといわれています。
加えて、陰間の中には若い歌舞伎役者も含まれていました。彼らの多くは本業の舞台で思うように名を上げられず、役者として苦境に立たされていた者たちでした。そのため、陰間として副収入を得ることを目的とし、主に男色を好む贔屓筋の客を相手にしていました。報酬は相当な額に上ったんだとか…。
客の相手をするのは16、17歳くらいの少年で、20歳を過ぎると陰間としての人気は落ちたといわれています。陰間が年季を終えて自由の身となっても、安定した地位を得るのは容易ではありませんでした。商人として成功した者もごくわずかながらいたものの、多くの場合は女性客を相手にする男妾や、商家の令嬢の慰み者として生計を立てるか、あるいは遊芸人として漂泊の暮らしを選ぶ者が大半だったとされています。
吉原の遊女も年季が明けて大名に身請けされる女性や裕福な商人の妻の身分を得られる女性ばかりでなく、吉原で女郎として働き続ける女性、夜鷹として屋外で身売りする女性もいましたが、陰間についても年季明け後の暮らしも期待できるものではなかったのです。
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』は、毎回“歴史の裏側”や“知られざる文化”が描かれるのが魅力。
▶▶てい・蔦重・源内が動き出す! 絶望のふちで灯る“再生”の光、写楽誕生へ向かう物語の転換点とは
では、江戸の男色文化から、ていの深い喪失、そして蔦重・源内をめぐる新たな謎まで物語が大きく動く回でした。歴史背景や人物たちの感情の揺れをじっくり読み解いていきます。
参考資料
大和田守(編集)、歴史の謎を探る会 (編集)『江戸の時代って本当はこんなに面白い! 学校では教えないビックリ江戸学』河出書房新社、2004年
安藤優一郎『春画でわかる江戸の性活』宝島社、2021年
永井義男『春画で見る江戸の性事情』日本文芸社、2010年



