そこで本記事は、カルペ・ディエムが東大生100人にアンケートを実施した結果から、東大生が「子供のころにやっていてよかったと思う遊びや習慣」「その習慣が現在にどのようにつながっているのか」などの声を集めた。
東大生の多くが実践していた習慣や、思いのほか身近で取り入れやすい習慣など、彼らの高い学力を支える「土台」ともいえる経験を読み解き、共有する。
語彙力と教養を育む「読み聞かせ」
東大生が育った家庭のほとんどが、「読み聞かせ」を日常的に行っていたという話を聞いたことがあるだろうか。今回のアンケートでもやはり、「読み聞かせ」を親にしてもらっていたと答えた東大生が、100人中85人と非常に多かった。
そのうち、半数ほどがどんな本を読み聞かせてもらっていたのか「覚えていない」と答えている。つまり、内容が印象的だったというわけではないようだ。しかし、中身を覚えていなくとも、読み聞かせの経験は東大生の学力の根幹を成していると考えられる。
読み聞かせには、子供が自然と「言葉の豊かさ」に触れられるという大きな意義がある。文字が読めなくても、大人の語り口やリズムに耳を傾けるなかで、多様な語彙や文の構造を無意識のうちに吸収していくからだ。これは、机に向かって語彙を「暗記」するのとは異なり、感情や情景と結びついた形で言葉を「体験」する機会となる。こうした積み重ねが、後々の読解力や文章表現の基盤となっていくのだ。
また、本には動物や自然、社会や文化など、家のなかでは触れにくいさまざまな世界が広がっている。読み聞かせを通してそうした物語や知識に触れることで、子供のなかに教養の芽がゆっくり育っていくのだ。
手を動かしながら思考力を育てる「知育玩具」
積み木やパズル、ボードゲームなどの「知育玩具」をあげている東大生も13人と比較的多かった。中でも、複数人が「やっていてよかった」と感じているのは、「レゴブロック」だ。
レゴブロックのような組み立て玩具には、完成図を思い描きながら試行錯誤を繰り返すプロセスが欠かせない。部品を選び、組み合わせ、思いとおりにいかなければ作り直す。この一連の流れのなかで、空間認識力や論理的な段取りを組む力が自然と育っていく。遊びながら主体的な思考姿勢を培えるのが、レゴブロックの魅力だろう。
また、将棋・オセロなどのボードゲームやパズルも、思考力の土台づくりに大きく貢献する。パズルは「目の前の情報から規則性を見つける力」を、将棋やオセロは「先を読む力」「戦略を考える力」を鍛える遊びだ。正解を教わるのではなく、手を動かしながら自分で導き出すことができる知育玩具は、後々必要な数学的思考や問題解決力を育むことができるのだろう。
東大生のなかには、「兄とボードゲームで対戦していた」「姉の影響でパズルを始めた」と述べている人も。年上の兄姉がいると、少し難しい遊びに触れる機会が自然と増え、背伸びをしながら挑戦する経験が積み重なる。思考力や集中力を早い段階で育むのもまた、大切なポイントのひとつなのかもしれない。
五感を刺激して感性を磨く「外遊び」のちに東大に合格するのだから、小さいころから家のなかで黙々と遊んでいたのかと思いきや、意外とそうでもないようだ。100人中12人は「外遊び」をあげている。公園の遊具を使って鬼ごっこをしたり、虫取りや雪遊びなどの季節に合わせた遊びをしたりと、活発な幼少期を過ごした東大生も少なくないらしい。
外で思いきり体を動かす経験は、単なる息抜きではなく、五感を通じた豊かな学びにつながる。風の匂いや地面の感触の変化に気付くことは、観察力や状況判断力の土台を作るうえで欠かせない。また、鬼ごっこや集団遊びでは、その場でルールを調整して楽しく遊ぶための協調性やコミュニケーション能力などの「社会性」が養われる。こうして身に付いた力は、学習にはもちろん、のちの人生でも確かな強みとして発揮されるはずだ。
また、「水路でドジョウやカエルを捕まえていた」「虫取りをして、取ってきた虫を家で飼っていた」といった声も。自然や生き物と直に触れ合う体験の価値が見えてくるだろう。生き物の動きを予測しながら捕まえるには、分析力、集中力、粘り強さが必要であり、そのプロセス自体が学びになる。そして、季節の移ろいとともに変わる生態に触れることで、生命への興味や探究心が芽生え、学習意欲の原動力にもなり得るのだ。
学びの土台となる生活リズムを整える「早寝」
誰にでもできるようなシンプルな日常習慣が、意外にも複数人からあがった。それは「早寝」だ。東大生というと高度な学習法や長時間の自習を想像しがちだが、実際には「毎晩同じ時間に寝る」「規則的な睡眠をとる」といった基本をきちんと続けていた人が多いらしい。
早く寝ることの効果については、「日中の活力が常に高い状態を保てた」「睡眠を削ってがむしゃらにやるのではなく、健康的に努力する習慣が身に付いた」などの声が。睡眠が十分にとれていることは集中力や記憶の定着を支え、短期的な成果よりも持続的な学習効率を高める。つまり、睡眠を大切にする習慣は単なる体調管理にとどまらず、学習の質を左右する重要な要因になっているのだ。
とはいえ、早寝を続けることは思ったよりも難しい。中学・高校と学習量や部活動の練習が増えるにつれて、不規則な生活になりがちだからだ。それだけに、小さなうちから規則正しい生活リズムを身に付けておくことは価値が大きいと言えるだろう。
読み聞かせ、知育玩具、外遊び、早寝。本記事であげた4つの習慣はいずれも特別なものではないが、それぞれが異なる効果をもちつつ相互に補完し合い、東大生の高い学力を支える「土台」を形づくっていると言える。子供にどのような経験をさせるかに迷ったら、「遊びながら学習につながる要素を育めるかどうか」を1つの基準にすると良いだろう。



