
首都圏の中学受験が過熱するなか、「大変なことは早く終わらせたい」と、小学校受験を選ぶ家庭も増えています。
今回お話を伺ったのは、鎌倉在住の3姉妹の母・まちこさん(仮名・50歳)。子供本人の希望を尊重し、長女は公立中学、次女は私立中学と別々の進路を選びましたが、2人の進学した大学は同じだったとのこと。
「それならば公立の方がお得」と思ってしまいそうですが、意外にもまちこさんは、末っ子三女を小学校受験させたとのこと。公立が必ずしも「経済的にお得」とも言えない、リアルな事情を明かしてくれました。
■年の離れた3人の女の子のママ。20歳、19歳の大学生2人と、8歳小学生
化粧品メーカーで広報を務めるまちこさんは、千葉県出身。
「私自身は中学受験組で、中学から東京のミッション系私立女子校に通い、推薦で系列の短大に進んで英語を学びました。卒業後は外資系化粧品会社の総務部で働き、27歳で外資系広告代理店勤務の夫と結婚しました」。
30歳で長女、31歳で次女、42歳で3女を出産したまちこさん。
「20歳と8歳の子を連れて歩くと、『再婚ですか?』と聞かれることもあるんです。でも同じ夫です(笑)。子供が大きくなった頃に、どうしても『もう一度赤ちゃんを育てたい』と思い立ってしまって……ありがたいことに高齢出産で元気な女の子が生まれましたが、やっぱり30代とは疲れ方が違いますね。体力はあるほうだと思ってたんですけど、さすがに小学生の運動会で走るのはキツいです」。
■長女は公立中、次女は私立中へと、女子2名の進路は「入口では」違った。でも大学に進むと意外にも
結婚後に夫の実家から遠くない鎌倉に家を建て、専業主婦として子育てをしてきたというまちこさん。数年前、化粧品会社を起業したかつての仕事仲間に誘われて、職場復帰しました。
「10年前の専業主婦時代より働いてるほうが楽です。上の2人は年子で子育てに体力を使ったので。特に長女の育児が大変でした! 夫がアメリカ人とのクォーターなのですが、夫似の長女はスカウトされることが多く、自分の意思でキッズモデルをしていました。でも子供時代は東京にすら1人で行けないので、半分ステージママ状態で行ったり来たり」。
車の運転は嫌いではなかったまちこさんですが、その頃は、家族旅行の運転は完全に夫任せにするほど運転に疲れていたそうです。
「さらに高学年になると高身長を活かして小学生バレーボールクラブに入って、夢中になりました。その影響か『絶対にバレーの仲間と公立中に行く』って言ってきかない。友達と離れたくないって言うので、そこは本人の意思を尊重しました。鎌倉って、東京みたいに『中学受験が大人気』って雰囲気でもないんです」。
一方、次女は「制服が気に入った」と中学受験をして私立中学に進学。そのままエスカレーターで高校に進み、推薦で東京の共学私立大学へと進学しました。
「長女は高校受験、大学受験と2度の受験を経験しましたが、蓋を開けてみたら長女と次女は同じ大学。次女は『お姉ちゃんが行っているから見学に行ったら楽しそうだったから』という理由で第一志望にしたといっていました」。
■長女の公立中でしみじみ感じた「母親の体力がもたない」問題。次女の私立でラクさを実感
「うちの3姉妹を見ていると、私立に行かせようが公立に行かせようが、学力は本人次第。長女は一般入試で、次女は推薦で、同じ大学に入りました。東京の中堅私立大学のひとつです。2人は顔も似ていますが、成績もほとんど変わらないんですよ」。
中学受験をしても、公立中学に行っても、進学先は同じだった。それでも、三女は最初から私立小学校に入学させた理由を、まちこさんはこう話します。
「学力的な結果は同じでも、我が家の場合は『母親の労力』が全然違ったんです。長女は公立中高で体育会系バレーボール部に入って部活三昧。たまにモデルまでやっていたので、母親の私は送迎だけでも疲れ果てていました。公立は自由な反面そこまで部活と勉強の両立のサポートが手厚いわけではないので、朝練をして、部活をして、帰ってきてから塾に。そこにたまにモデルの撮影。若い本人はいいですけど、とてもついていけないです」。
送り迎えは基本的には、当時専業主婦だったまちこさんの仕事でした。
「次女の中学校受験でも塾への送迎の手間はありました。でも、小学生はまだ反抗期前ですし、うちの場合はそこまで忙しさは感じませんでした」。
その反面、長女の高校受験、大学受験のサポートは思い通りにはいかなかったそう。
「中学生、高校生はもう体も大きくて口も達者。自転車で行ける塾に行かせれば一人でも帰れますが、夜は痴漢などの心配も出てきます。部活でクタクタの娘を喧嘩しながらひっぱっり出して、塾に車で送り迎え……。私のほうが倒れそうでした。次女の学校はさほど有名校ではありませんが、サポート体制はバッチリ。塾並みの補習もあるし、部活と勉強のバランスも学校で調整してくれる。学校内で完結するし、経済的にも、塾代を考えたらトータルでは学費に大差はないです」。
■そして三女は小学校受験を選んだ。しかし驚きの対策、「幼児教室は行きませんでした」
まだ8歳の三女は、次女が通っていた神奈川県内の私立小学校に入学しました。
「東京の小学校受験はお金がかかると聞きますけど、うちの末っ子の通っている私立に限っては有名校ではない素朴な学校なので、そこまでしなくても受かります。もちろん神奈川でもお嬢様、お坊ちゃま学校を目指す場合は対策が必要だと思いますが。うちの子が行っている私立小学校は単願で、かつ『ご縁がなければ公立小学校に行けばいいか』というテンションであれば、一般的な通信教育のお勉強と、普通の習い事だけで問題ないんじゃないでしょうか」。
小学校受験を思い立った当時はまだ仕事復帰をしておらず、保育園ではなく幼稚園に通わせていたというまちこさん。
「うちの小学校受験の場合は、上の子が中学の卒業生だったので内部事情もだいたい聞いていたので、幼児教室には一度も行きませんでした。習い事の数も普通です。幼稚園とも提携しているバレエ教室や茶道教室の先生が挨拶の仕方や礼儀作法を教えてくれましたし、あとは水泳とピアノをやっているくらいです。小学校受験では、協調性があって、ある程度の礼儀と挨拶が身についていれば、受かる可能性が高い。もちろん落ちない保証はないので運次第ですが、特別な対策はしなかったんです。幼児期の教育費も公立小学校に行ったお友達と変わりませんでした」。
■「私もやっと、自分の時間を取り戻しました」
現在、三女は私立小学校に通い、エスカレーター式で高校まで進学予定。まちこさん自身も、再びスタートした仕事にやりがいを感じているそうです。
「次女と末っ子の学校の系列高校では塾並みのラーニングセンターもありますし、真ん中くらいの成績を取っていれば上の2人も行っている東京の私立大学や、近隣の四年制女子大学の推薦も狙えます。末っ子だからこそ、留学でも浪人でも、やりたいことを選ばせてあげたい。そのために、私もまた働き始めたんです。もちろん、自分のお小遣いがもう少し欲しい、という本音もありますが」。
昔からコスメや美容が好きで、シャンプーや化粧水にもこだわりがあったというまちこさん。
「働き始めてからは体力的にも精神的にも子育てとは違う大変さがありますが、あの『体育会系女子に伴走する高校受験と大学受験期』に比べたら乗り切れる気がします。会社には大人しかいないし大人はめったに癇癪も起こさない。それに、たまになら、末っ子をねえねやばあばに預けて同僚と飲みにも行ける(笑)」。
私立は経済的負担が大きいイメージがありますが、お話を聞いているとそこまででもなかった?
「我が家はあくまで一例なので、一概に『私立中学も公立中学も塾代をあわせたら経済的負担は変わらないよ』とまでは言えません。うちのように子供が体育会系娘ではなく、家でもちゃんと勉強するタイプなら塾だって受験前だけでいいでしょう。それならば、確かに公立の方がリーズナブルだと思います。でもスポーツに全力だったうちの長女に限って言えば中学1年生から塾の自習室に行かせないと宿題すらしないで寝てしまいそうでしたし、『なんでもコミコミ』の私立のほうが、親目線ではお得だったかもしれませんね」。
※本作は取材に基づいたストーリーですが、プライバシーの観点から、個人が特定されないよう随時事実内容に脚色を加えています。



