
「年をとったら、ふたりで一緒に住もうよ!」
女友達と冗談で話したことがある方もいるのでは? でももし本当に同居することになったら、どうなるのでしょう。
韓国発ベストセラーエッセイ『女ふたり、暮らしています。』の著者、キム・ハナさんとファン・ソヌさんは、ふたりで暮らしています。シングルでも結婚でもない「新しい家族の形」。
著書の中で、「一人暮らし」だったときと比較しながら、その生活をキム・ハナさんが語っています。今回は「ふたり暮らし」をしてみて「よかった」と思うことを、教えてもらいたいと思います。
※この記事は『増補新版 女ふたり、暮らしています。』キム・ハナ/ファン・ソヌ 著(
ひとり暮らしは、「不必要なことに備えてエネルギーを消耗」しているようなもの
ひとりで暮らしている時は、寝ようと思って横たわっていても家具がきしむ音や玄関の外で誰かの足音が聞こえると、眠気がぱっと吹き飛んだ。ドアや窓を全部ちゃんと閉めたか、猫は無事か、再度確認していざ寝ようとすると、すでに睡眠のリズムは崩れてしまっていた。
翌日のために寝ようとすればするほど、頭の中には雑念と不安ばかり募っていく。私がやらかした大小の失敗を思い出して布団を蹴飛ばしたり、明日の仕事で失敗したらどうしようとやる前から怖気づいたり、さっき掃除し忘れた箇所を思い出したりして自らを責めた。
眠りはますます遠ざかり、そんな考えばかりが次々と膨らみ、クライマックスへと展開していく。今、付き合っている人たちといつまで仲良くできるだろうか、私は何歳まで働けるだろうか、私が病気になったら猫はどうしよう……。
以前読んだ脳科学の本によると、そういう否定的な考えは脳の閉鎖回路みたいなところに入り込み、消えることなく堂々巡りする。しかも、さらに多くの否定的な考えを引き寄せるという。
そんな夜は明け方まで寝付けず、翌日は一日中、眠そうな目をこすりながら疲れを引きずって過ごした。私は友達に「誰か同居人でもいればいいのにな」と打ち明けたりもした。
家の中にひとりでいて、家の安全と危険が全面的に自分ひとりの責任であるという事実は、不安と疲労を増幅させた。ひとり暮らしには、まるで一年中ボイラーを焚いているみたいに、不必要なことに備えてエネルギーを消耗しているようなところがあった。
まるで「大型犬ガールフレンド」!? 同居人がもたらしたもの、奪っていくものとは?
誰かと一緒に暮らすようになってよかったことの一つは、相手が気分転換の強力な要因になるということだ。必要以上に考えたり、不安に脅かされることが明らかに減った。
果物をむいて食べながら交わす短い会話一つで、憂鬱な気分や不安を知らないうちに払いのけることができるし、一緒に住んでいればそういうことの連続なので、否定的な感情にとらわれている暇がなくなる。
家の中に誰かがいるという事実だけで得られる心の平和みたいなものもある。いや、必ずしも家の中にいなくてもいい。誰かがいつもこの家に帰ってくるという事実だけでも十分だ。最初に明かしたように、私は長い間ひとり暮らしが本当に好きで、テレビを一度もつけなくても一日中楽しく過ごせていたのに。
それはまるで、ひとり旅をしている途中で誰かと行動を共にすることになった途端にほっとし、その時になって初めて、それまでどれだけ緊張し、神経を尖らせていたかに気づくのと似ていた。
驚いたことに、同居を始めるとすぐに私の不眠はきれいさっぱり消えた。あんまりよく眠れるようになって心配になるほどだったが、それは同居人も同じだった。
ところで、気分転換になるのはいいけれど、同居人は私の注意力をごっそり奪っていくことがたびたびある。ファン・ソヌは手が届くところにある物に触れるたびに破損したり、汚したり、故障させたりする、その名も恐ろしい破壊王だからだ。
家の中のこっちでぶつかり、あっちで何かをこぼして回っているファン・ソヌは、まだ大人になりきれていないゴールデンレトリバーみたいだ。
図体が大きくて明るくて単純なボーイフレンドのことを「大型犬ボーイフレンド」と言ったりするが、私は「大型犬ガールフレンド」と一緒に住んでいるような気分だ。
ガミガミ言う人がいるよりも「千倍モチベーションが高まる」存在
同居人は体力があるうえに、根っからまじめな人だ。そして、四十を過ぎると体力とまじめさは直結する。いくらまじめでいたくても、体力がついてこなければどうしようもない。
一緒にお酒を飲んだ翌日、私が遅く起きてヘジャンククを食べ、またベッドに這い上がってうんうん唸っている時も、同居人は早々と出勤して家にいなかったり、休日の場合は、とっくにしゃんと起きて家事をし、あげくの果てにはランニングに出かけていたりもする。だから、私はいい意味で顔色をうかがうことになる。
布団から出たくないほど寒い朝でも、同居人に意志薄弱だと思われるのが嫌でプールに出かけた。書かなければならない原稿を放ったらかしにしたまま一日中ごろごろしていたい日も、同居人に恥ずかしいからノートパソコンを開く。
家に尊敬すべき人がいるということは、ガミガミ言う人がいるよりも千倍モチベーションが高まる。そうやって同居人の目を気にして無理やりやったことは全部自分のものになる。
体力のついた体やさらなる成果が、より大きい充実感とエネルギーになって自分のところに戻ってくるのだ。私はときどき、私のお手本になってくれる同居人の存在そのものをありがたく思う。
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■BOOK:『増補新版 女ふたり、暮らしています。』キム・ハナ/ファン・ソヌ 著

■著者:
キム・ハナ(写真向かって右)
性別・生まれた年:女・1976年
釜山・海雲台出身。19歳の時からソウルに住み、多種多様な住居形態を経験してきた。2016年12月にファン・ソヌと一緒に暮らしはじめ、以前にはなかった安定感と混乱を同時に迎え入れた。最近は、読んで、書いて、聞いて、話すことを生業としている。著書に『話すことを話す』『アイデアがあふれ出す不思議な12の対話』(ともに清水知佐子訳、CEメディアハウス刊)ほか、『金色の鐘音』(未邦訳)、母であるイ・オクソンとの共著に『ビクトリー・ノート』(未邦訳)などがある。
ファン・ソヌ(写真向かって左)
性別・生まれた年:女・1977年
釜山・広安里出身。18歳の時ソウルに上京。麻浦区でひとり暮らしを続けてきたが、2016年12月からキム・ハナと猫4 匹と一緒に暮らしている。20年にわたって雑誌を作り、そのうちの大半はファッション雑誌『W Korea』のエディターを務めた。著書に『とにかく、リコーダー』『愛していると言う勇気』『カッコいいと思ったら、みんなお姉さん』、共著に『最善を尽くしたら死んでしまう』(いずれも未邦訳)など。
2人の共著に『クィーンズランドシスターロード:女ふたり、旅しています。』がある。また、共同作業でポッドキャスト「女ふたり、トークしています。」を毎週制作、配信している。



