
もしも若いころに「イライラ」のPMS症状を持っていた場合、40代後半になって「イライラ」を再び感じたら、それはもしかして更年期症状の入り口なのかもしれない……? そんな「PMS症状と更年期症状の関連」の研究が先の11月に東京で開催された第40回日本女性医学学会学術集会で発表されました。
研究したのは小林製薬 研究開発本部 医薬品開発部 漢方・生薬開発G 林千晶さん。詳しい内容を伺いました。
人によって「これが更年期症状なんだ」と気づく症状は違う。だからこそ「更年期ではないよね」と我慢が生まれる
「更年期症状にはかなり個人差があります。患者さん自身が不調を更年期だと気づかない状態で放置してしまい、治療機会の損失が起きるのをどう解決できるかを考え、個人の状態や症状に合致したパーソナライズ化された情報提供をすることで、『これは更年期の症状なんだ』と気づいてもらうための研究を始めました」(林さん、以下カギカッコ内同)
現在26歳の林さんは、お母さまも薬剤師。子どもの頃から身近に漢方があったため、ご自身もごく自然に進学先に薬学部、生薬学を選んだといます。
「薬学の中でも生薬の研究を手掛け、小林製薬入社後も漢方生薬の研究を続けています。新製品の開発や有効性評価はもちろん、発売後の対応にも携わります。『命の母』のブランド活動にも参画しているほか、 『ユリナール』などの漢方も担当します」
今回林さんが手掛けた研究は、前述の通りPMS症状と更年期症状の関連の検討です。一般に女性医学では、PMSと更年期症状の連続性は、抑うつ気質などメンタル要因を別とすれば、さほど強くは捉えられていません。が、東洋医学の視点ではこれらは「証」に基づいた人の一生のリズムの中の変化と言えます。
「『命の母』ブランドとして、女性の一生をトータルでサポートしたいと考えています。不調を単なる『ホルモンバランスの乱れ』とだけ捉えるのではなく、一人ひとりに現れる身体的・精神的な症状や、東洋医学的な証から総合的に判断し、最適なサポートをお届けしたい。これが私たちの独自の視点と言えるかもしません」
代表的な6つの更年期症状の「前に起きていたPMS症状」とは何か?
1年前に開催された第39回の同学術集会では、同じく小林製薬のチームが『命の母』チャットボットのデータ解析を行い、「年齢ごとに不定愁訴が変化していく」(図1)「イライラの原因も変化していく」(図2)ことを突き止めた論文が賞を受賞しています。林さんの研究はその後継なのでしょうか?
「今回はまた別の角度から別の課題に向き合っています。私が行おうとしたのは『予測』です。現状の症状を聞いて解決策を提示し健康をサポートする形から、さらに予測に繋げていけたらと考えました。『命の母』として全年代をサポートしたいという思いがあるので、『予測も組み込めたらいいよね』という軽いアイデアから研究が始まりました」
この研究は「更年期症状を持ち、閉経後の45歳から55歳の女性を対象に、PMSを振り返ってもらう」という後ろ向きアンケートを実施し結果を解析しました。
「予測したかったリスク症状は代表的な6つの更年期症状、イライラだるさ頭痛落ち込み・不安発汗肩こりです。これらの症状に対して、『冷え』『吐き気』『腰痛』など51項目の質問を選び、機械学習で寄与度の高いTOP10、TOP5の項目を選び出してそれぞれの正解率を算出しました。結果的に、6つの更年期症状は18項目のPMS症状から予測できることを見出しました」
【18項目のPMS症状】
・気分の落ち込み、悲しい憂鬱 ・絶望感 ・不安、緊張、興奮 ・気分の不安定(突然悲しい、涙もろさ) ・拒絶に過敏になったり、感情が傷つきやすい ・怒りを感じたり、怒りやすい ・無気力を感じたり、あきあきしたり、疲労を感じた ・寝過ぎた、居眠りをしてしまう、朝起きるのがつらい ・寝付けなかったり夜中に目が覚めた ・圧倒された感じがしたり、うまく対処できないと感じた ・乳房の張り、むくんだ感じ、体重増加 ・頭痛 ・腰痛 ・冷え ・肩こり ・乾燥・かさつき(皮膚の乾燥) ・眩暈、立ち眩み ・のぼせ、発汗
具体的には、どのようなPMS症状がどのような更年期症状と関連が深いのでしょうか?
PMSで「イライラ」「頭痛」を持った人は、更年期にも「イライラ系」「頭痛系」を持つ可能性が高い
■イライラ
「例えば、更年期症状でイライラを持った人は、PMSの段階でも怒りなどを感じていたということが言えます。1位から順番に、1・怒りを感じたり、怒りやすい 2圧倒された感じがしたり、うまく対処できないと感じた 2・気分の落ち込み・悲しい感じ・ゆううつ 4・不安・緊張・興奮 5・拒絶に過敏になったり、感情が傷つきやすい、でした」(林さん)
「イライラのほか、頭痛も、重要度で1位に類似の項目が入りました。イライラならば『怒り』系でしたが、頭痛ならば『頭痛』というように、関連した項目がトップに上がってきやすいのです」
更年期に「発汗」「だるさ」を持つ人は、PMSの2位が「腰痛」「頭痛」。意外な関連が?
■発汗
「ただし、例えば『発汗』の項目の2番目に『腰痛』が来ていたりと、少し違う系統に思える指標も含まれてきています」
■だるさ
「同様に、『だるさ』も2番目に『頭痛』がきています」
イライラに「怒り系」であるのと同様、落ち込み・不安には「不安系」がきている
「いっぽうで、落ち込みや不安といったものはそのまま変化がありません。イライラの項目であれば上位は怒り系ですが、下の方には不安や傷つきやすさといった、落ち込み・不安と似たような症状が出てきていたりします」
なのですが、「肩こり」は「腰痛」との関連があるかもしれない
■肩こり
「発汗の2位が腰痛であるのと同様、肩こりの2位も腰痛でした。このように意外な指標も見られました。また、発汗や頭痛にはあまり精神症状が出てきていないという傾向は見られます。精神神経症状的なものと、血管運動症状的なもので比較すると、現状の予測結果では発汗や頭痛の項目にはあまり精神症状が出てきていない傾向は見られます。これだけが全てではないとは思いますが、結果からはそういった傾向も見えなくはないかもしれません」
将来の「心身の変化」を予測し、前向きな備えのきっかけになるコンテンツを提供したい
つまりは、更年期症状はランダムに出るというよりは、PMSで出現する症状との何かしらの関連がありそうだということが見出されたわけですね。
「はい、トップ5だけを括って18項目になるということは、やはり上位で被る症状がかなりあるということになり、それら共通の症状だけである程度の予測ができるというのは大きな発見かなと思います。今後は予測したい更年期症状の選定をさらに進め、精度を高めていきたいです。こうした知見を活かし、将来自分の心身に起こりやすい変化を、いち早く察知し、前向きに備えられるきっかけになるコンテンツを提供したいと考えています」
今後研究を進めるにあたって、現在判明している課題点は何でしょうか?
「現在のところ、更年期の症状を持っている閉経後の人に対して質問を行い、後ろ向きに答えてもらっているという点が課題です。例えばホットフラッシュは記憶に残るけれど、イライラはいつ始まったか、そもそも症状としてあったのか、確実な返答ではない可能性もあります。PMS症状の記憶そのものにバイアスが残る可能性もあります。今後はこういった課題にもアプローチしていきたいと考えています」










