
夫婦問題・モラハラカウンセラーの麻野祐香です。働く女性は、モラハラやDVの夫から簡単に逃げられるのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。さまざまな事情から、支配的な配偶者との結婚生活を続けている人は少なくないのです。
オトナサローネ世代のモラハラ被害にフォーカスした本連載。今回は、毎年長期休暇が近づくたびに恐怖を感じてしまう、結婚10年目のEさんのお話です。
毎年やってくる「恐怖の連休」。夫は嬉しそうだけど、私は…
「今年のGWは、有給を入れたから8連休だ!」夫がそう報告してきた瞬間、Eさんはゾッとし、深い失望感に包まれました。世間では、家族で過ごす楽しい連休とされているゴールデンウィーク。けれど、ある家庭にとっては、この時期は楽しみどころか、強い恐怖を感じる期間になります。夫が家にいる時間が長くなるほど、妻は気を抜けなくなり、自分の時間も、休む時間もなくなっていく。そして心が、じわじわと削られていくのです。
なぜこんなにも、「ゾッとする」のでしょうか。ひとつは、逃げ場がなくなる感覚です。ずっと同じ空間に閉じ込められ、夫の視線と機嫌から逃れられる場所がない。平日であれば、仕事や外出によって夫と距離ができ、たとえ暴言を受けても気持ちをリセットする時間が持てます。けれど連休中は、それができません。逃げ場のない日々が何日も続くとわかっているからこそ、始まる前から体が緊張してしまうのです。
もうひとつは、「また繰り返される」という記憶が蘇る感覚です。過去の連休がどれほど辛いものだったか、心と体がしっかり覚えているのです。EさんはGWが近づくたびに、「また今年も、あの日々が来る」そう思うだけで、眠れない夜が続くようになっていました。
頭では「今年は気にしないようにしよう」「夫の言葉を真に受けないようにしよう」と思っていても、心と体はどうしても反応してしまうのです。夫の暴言。傍若無人な態度。家中に張り詰める緊張感。夫の一挙一動に、恐怖を覚える。だからGWが始まる前から、体が先に反応してしまうのです。
そしてもうひとつ、「自分が壊れていく」感覚もあります。夫に気を使い、言葉を選び、本音を飲み込みながら過ごす時間が何日も続く。その結果、連休が終わる頃には、自分という存在の価値さえ見失い、生きることが辛くなってしまうこともあるのです。本当は嫌なのに合わせてしまう。本当は疲れているのに動いてしまう。そうしたことを繰り返しているうちに、「自分はどうしたいのか」がわからなくなっていきます。
またあの時期が来る。そう思うからこそ、「ゾッとする」のです。
連休初日、夫が朝起きて最初に言い放った言葉は
連休初日。夫は好きな時間に起き、開口一番こう言いました。
「メシは?」
「おはよう」ではなく、「メシ」。その一言で、Eさんの一日が始まります。丁寧に作られた和定食を食べ終われば夫は「ごちそうさま」も言わずにソファーにどさっと座り、スマホを見たり、テレビを見たり、うたた寝をしたり。その間、Eさんは休む間もなく洗濯を回し、掃除をし、まだ幼い子どもたちの世話を続けるのです。
以前、休みの日だからと、自分もゆっくり起きたことがありました。すると夫は、「主婦のくせに。夫より遅くまで寝ているなんて、ありえない」と蔑むような目で言い、「すぐにメシの用意をしろ」と大声で怒鳴りつけてきたのです。そしてその日は、1日中機嫌が悪くなりました。
その経験があるから、怖くて休めないのです。辛い経験を繰り返すうちに、人は自然と「先回り」するようになります。まだ何も起きていないのに、「こうした方がいい」「これはやめておこう」と、怒鳴られないための行動を考えるようになるのです。これをやらなければ夫が不機嫌になる。この言葉を言えば怒鳴られる。それが予測できるからこそ、心は常に緊張状態に置かれています。
午前中の家事がやっと終わり、一息つこうとしたその瞬間、夫はこう聞いてきます。「昼メシ何?」Eさんは休む間もありません。本当はクタクタで、すこし座って休みたいけれど、「文句を言われたくない」そう思うから、しっかりと夫好みの食事を作るしかありません。
夫は「ありがとう」も言わずに食べ終え、またソファーへ。片付けを終えて、ようやく座ろうとすると、今度はこう言い出します。
「どこか行こうか」
一見すると家族思いの言葉に聞こえます。けれどそれは、絶対に断れない命令でした。
以前、「混んでいるから今から出かけるのはやめた方がいい」と言ったことがありました。すると夫は、「俺の提案に文句があるのか」「お前はいつも否定しかしない」と鬼のような目で睨んできたのです。だから反対することはできません。この夫の「お出かけ」は家族サービスではなく、「家族をレジャーに連れて行った優しい父親」という称号を得るための、独りよがりなパフォーマンスなのです。ですから、夫の機嫌を損ねないためには、それに付き合って、楽しんでいるフリをしなくてはならないのです。
案の定、渋滞…。夫の不機嫌に、気持ちをすり減らして
案の定、道路はどこも大渋滞でした。夫は、自分の計画どおりに進まない苛立ちを、そのまま撒き散らし始めました。「チッ、なんだよこの渋滞。お前たちがここに行きたそうな顔してたから、わざわざ車出したのに」自分が言い出したことなのに、すべて人のせいにする。子どもたちは夫の顔色をうかがい、「地雷」を踏まないように神経を張り詰めています。誰も口を開きません。車内は、逃げ場のない「移動式の監獄」になっていました。
結局どこにも立ち寄れず、家族全員が疲れ切って帰宅。家に着くなり、夫はこう言います。「晩メシ何?」休む間もなく、夕食の準備が始まります。
「どうして自分ばかり」「なんでこんなに気を使っているんだろう」そんな思いが浮かんでも、決して不満げな雰囲気を出すことはできません。夫の説教が延々と始まることがわかっているからです。こうして疲れ切った一日が終わり、翌日もまた同じような一日が始まります。
このような生活が続くと、人は少しずつ「自分の感覚」を見失っていきます。本当は疲れているのに「まだ頑張れる」と思い込み、本当はつらいのに「自分が悪いのかもしれない」と考えてしまうようになるのです。
けれど、それは弱さではありません。毎日緊張の中で過ごし続けた結果、心と体が「怒らせないこと」を最優先に覚えてしまった、ごく自然な反応なのです。
本編では、GW初日から続く終わらない家事と緊張の一日、そして「休みが怖い」と感じてしまう家庭の現実についてお伝えしました。
▶▶「休みが短かったな」と笑う夫の横で…連休が終わった瞬間、妻が決めたこと
では、8日間の連休が終わったあと、妻が感じた限界と、そこから生まれた決意についてお届けします。
※本記事は、相談者様への敬意と守秘義務に十分配慮したうえで、モデルケースとして編集・再構成しお届けしています。特定の人物や事例を示すものではありません。
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