
こんにちは。「1人も見捨てない子育て手札の提案者」として年間数百件以上の子育て相談に乗っているきのぴー先生です。児童自立支援施設に併設された小中学校に勤務し、生徒指導主任を務めました。愛情や正論だけではなかなかうまくいかない子どもとの関わり。この連載では、理想論や正論だけでは届かないところにある、泥くさい現場で培ってきた子どもとの関わり方のヒントをお届けしていきます。
【きのぴー先生の子育て手札 #4】
精神病棟への入退院を繰り返す子どもが動き出すまで
子育てには、不思議と長いトンネルに入ったかのような時間が訪れることがあります。出口が見えない。前に進んでいるのか、同じ場所を回っているのかもわからない。今回相談を受けたAさん(仮名)も、長いあいだそのトンネルの中にいました。三人きょうだいを育てる中で、それぞれが学校生活や心の面で困難を抱えるようになったのです。なかでも大きな転機となったのが、精神病棟で入退院を繰り返していた現在25歳になる長女さんの出来事でした。
▶周囲からは「しっかり者」。ある日突然不登校に
皆勤賞だった娘が、突然学校に行けなくなった
長女は、もともととても真面目な子でした。中学までは皆勤賞。学校を休むことなどほとんどありませんでした。成績も平均的で、特別目立つタイプではありませんが、周囲からは「しっかりした子」と言われるような存在だったといいます。しかし高校2年生の頃から、様子が変わり始めます。
急に忘れ物が増えました。それまできちんとしていた子が、同じミスを何度もするようになります。そして、学校に行けない日が増えていったそうです。なんとか通信制高校へ転学することで首の皮一枚がつながり、高校を卒業。その後、進学した専門学校では通うことが難しくなり、休学を経て退学しました。
その後も状態は安定せず、精神病棟への入退院を繰り返す時期が続いたそうです。学校との相談、医療機関への通院、支援機関との連携。本を読み、ネットを活用して情報を集め、子どもたちの状態を理解しようと努力しました。「とにかく何とかしなきゃと思っていました」とAさんは話します。
しかし、状況はすぐには変わりません。そして皮肉なことに、頑張れば頑張るほど「なぜ動かないのだろう」と、上手くいかないことを嘆く時間も増えていきました。このような状況では、親は自分を責めやすくなります。「もっと違う関わり方があるのではないか?」と。子育ての正解を得るため、調べれば調べるほどネットの海へ迷い込み、ますます正解探しの沼へと入り込んでいったのです。しかし残念ながら、多くの場合、問題は努力不足ではありません。
・成長には順番があること。
・技術として粘り強く試行錯誤すること。
この2点の視点が欠けていたのでした。
▶「正論」では子どもは変わらないという事実
「正論を伝えるだけでは人は変わらない」。難しい背景を持つ、子どもたちから学んだこと
私はこれまで、児童自立支援施設併設校や教育現場で、さまざまな背景を持つ子どもたちと関わってきました。
・学校に行けなくなった子ども。
・家庭の中で強い葛藤を抱えていた子ども。
・怒りや不安を抱えていた子ども。
そこで何度も感じてきたことがあります。それは何か?
「人は、正しい言葉を聞いたから変わるわけではない」ということ、そして「環境を整えただけで変わるわけでもない」ということ。
「目の前の子どもに合った適切な支援」によって子どもは変わっていくということです。それは劇的な変化ではありません。むしろ、気づかないうちにいつの間にか変わっているような微々たる変化です。変化がわかりづらいからこそ、手順をしっかり把握しないと、焦りが生まれ、不安が生まれ、関わりが空回りしてしまうことが多々でてきてしまいます。
順番を知る、シンプルですがとても大切なことだったのです。
▶「引きこもり」の子どもに最初にすべきこと
引きこもりの子どもが動き出す。「成長の順番」という技術とは?
私たちは知らないうちに、自分が思い描いている成長の順番に、子どもを当てはめようとしてしまいます。けれど、目の前の子どもが、自分の想定している姿でいないならば、その関わりはミスマッチになることが多くあるのです。
目の前の子どもの実態に合わせて対応する話をすると、よく勘違いをされるのですが、甘やかしましょう、というわけでは決してないのです。ミスマッチが起きれば、子どもは反発するか、心を閉じるか、余計に動けなくなるのです。それがどんなにいい対応だったとしても、順番を正しく把握していなければ、ただただ効果的ではない、というお話です。特に敏感さのある子、発達の凸凹がある子、認知がネガティブに傾きやすい子ほど、そのズレの影響を強く受けます。
だからこそ必要なのが、「成長の順番」という技術です。私はこの順番を、4つの段階で捉えています。
信頼関係をつくる
まず第一ステップとして意識したいのが、信頼関係です。「ちゃんと見ているよ」「あなたを大切に思っているよ」「今のあなたを切り捨てないよ」そういう空気が、子どもにとっての心理的安全性を高めることにつながります。感情が爆発しているとき、不安でいっぱいのとき、まだこちらを敵だと思っているときに、正論を入れても意味がありません。むしろ逆効果になります。そこで必要なのは、正しさではなく受容です。何度もお伝えしますが、これは甘やかしではなく、順番の問題です。
▶▶「外に出られる気がする」引きこもりだった長女が動き始めるまで



