
夫婦問題・モラハラカウンセラーの麻野祐香です。経済的に自立した「働く女性」であってもなお逃げ切れずに苦しむ夫のモラハラについて、長年に渡りカウンセリングを続けてきた私なりの対策をお伝えしています。
※本記事は、相談者様への敬意と守秘義務に十分配慮したうえで、モデルケースとして編集・再構成しお届けしています。特定の人物や事例を示すものではありません。
※写真はイメージです
30年我慢したけれど、ある日「離婚しよう」と決意した
「離婚したい」
Yさんがそう思ったのは、結婚して三十年以上が過ぎた頃でした。夫は暴力を振るうわけではありません。生活費もきちんと入れています。世間から見れば、ごく普通の夫婦に見えていたかもしれません。それでもYさんは、この先の人生を夫と一緒に過ごしたいとは思えなくなっていました。Yさんが熟年離婚を選んだ理由は、たったひとつ。夫といると、自分がどんどん小さくなっていくような感覚を覚えるからです。
夫は、とにかく否定の多い人でした。たとえば、ある日のこと。夫がYさんに、「お前が気に入っているマッサージ店、今度行ってみたいな」と言ったので、Yさんは自分のお気に入りのお店を紹介しました。ところが帰宅するなり、夫はこう言ったのです。
「別に大したことなかったな。なんであんな店がお気に入りなんだ?全然うまくないじゃないか」
Yさんは唖然として、何も言えませんでした。自分の提案したことを否定されたことも悲しかったのですが、それ以上に、自分が大切にしているものを馬鹿にされたようで、とても嫌な気持ちになったのです。「紹介しなければよかった」と、夫に何かを教えるたびに、いつもそう思うのでした。
また別の日には、夫がネットで見つけたレストランへ行ったことがありました。その店は評判も良く、夫自身が「行ってみたい」と予約したお店でした。ところが席に着いた瞬間から、夫は不満ばかり口にし始めたのです。
「思ったほどじゃないな」「あれが良くない」「これなら別の店のほうがいい」
自分で選んだ店なのに、褒める言葉はひとつもありません。それどころか店員さんに向かって、「これは悪くないけどさぁ、もっと盛り付けを工夫したほうがいいよ」と、評論家のような口調で話し始めました。Yさんは恥ずかしくてたまりませんでした。夫は有名なグルメライターでもなければ、その店の常連客でもありません。それなのに、まるで特別な客であるかのように振る舞うのです。
夫と一緒にいても楽しくありませんでした。どこへ行っても否定。誰の話を聞いても否定。テレビを見ても否定。ニュースを見ても否定。
そして、その合間に自慢話が入ります。
夫と過ごす時間は、楽しさよりも疲れのほうが大きくなっていきました。Yさんは次第に、自分の好きなものや興味のあることを夫に話さなくなりました。好きなお店も、好きなテレビ番組も、好きな芸能人も。どうせ否定されて嫌な気持ちになるだけだからです。
最初のうちは夫に腹を立てていました。けれど何年も続くうちに、怒ることさえ面倒になっていったのです。「あ~、また始まった」そう思いながら聞き流すことしか、しなくなっていました。
モラハラをする人は、何かを褒めることでは満足できません。否定することで、自分のほうが上だと感じたいのです。相手のお気に入りを認めるより、「大したことない」と切り捨てるほうが気持ちいい。だから何を見ても、まず欠点を探します。
けれど本当に自信のある人は、わざわざ人の好きなものを踏みにじったりしません。誰かの「好き」を認めたからといって、自分の価値が下がるわけではないからです。
しかし、Yさんの夫は、何かを否定することでしか、自分の価値を確認できませんでした。
「自分は悪くない」危険運転をしても、責任転嫁ばかりの夫
夫の運転は、いつも少し乱暴でした。前の車との車間距離を詰めたり、無理なタイミングで追い越そうとしたりすることもあります。助手席に座るYさんは、そのたびに体がこわばりました。ある日、交差点を曲がろうとしたときのことです。左側から自転車が近づいてくるのが見えました。以前、本当に接触しそうになったことがあったため、Yさんは思わず声をかけました。
「左に自転車がいるよ」
すると夫は、すぐに不機嫌そうな声で言いました。
「うるさい。見えてる」
Yさんは黙りました。
心配して声をかけただけなのに、夫はまるでYさんが悪いかのような態度を取り、自分の運転の危うさを認めようとしませんでした。自転車が悪い。道路が悪い。相手の車が悪い。
自分は悪くない。
それが夫の考え方でした。責任転嫁ばかりなのです。モラハラをする人は、自分の非を認めようとしません。なぜなら、自分が間違っていたと認めることを、自分の価値が下がることのように感じてしまうからです。
本当に危ないときに「危ない」と声をかけただけなのに、このようなことを繰り返すうちにYさん自身も次第に、「私が気にしすぎなのかな」「私が神経質なのかな」と、自分の感覚を疑うようになっていきました。
モラハラが怖いのは、被害者が自分自身を信じられなくなってしまうことです。
「やってあげる」の裏にある支配
夫には、もうひとつ特徴がありました。それは、「やってあげる」という姿勢です。ある日、夫は前の晩にこう言いました。「明日は駅まで送ってやるよ」雨の予報だったので、Yさんは助かると思っていました。ところが翌朝になると、夫はなかなか支度をしません。
約束の時間が近づき、「もう出る時間だから、お願いできる?」と声をかけると、夫は不機嫌そうに言いました。「今は無理だ」さらに、「送ってもらう立場のくせに偉そうに言うな」と続けたのです。Yさんは、期待した自分が馬鹿だったと思いました。夫はいつも期待させておいて裏切るのです。
それでも夫は、「送ってやろうと思った」という事実だけを持ち出して、自分を正当化します。
そして何かをしてくれた後には、必ず「感謝が足りないんじゃないか」「恩を感じていないだろう」と言うのです。
何かを頼めばグチグチ言われる。だから次第にYさんは、「もう何もしてもらわなくていい、いっそ関わらないでほしい」と思うようになりました。夫の親切は、受け取る側を楽にするものではなく、疲れさせるものだったのです。
そして何よりもYさんを苦しめたのは、夫との会話でした。夫は話すとき、わざと声を低く落とします。怒鳴るわけではありません。けれど冷たく、威圧的で、相手を見下すような話し方でした。何か嬉しいことがあって話しても、
「ふーん」
で終わる。
悩みを話しても、
「だから何?」
と言われる。
相談しても、
「そんなことも分からないのか」
と返される。共感されることは、ほとんどありませんでした。
家にいるのに、心が休まらない。隣にいるのに、孤独。そんな毎日だったのです。
本編では、何を話しても否定され、自分の「好き」や気持ちを少しずつ失っていったYさんの結婚生活についてお伝えしました。暴力があったわけでも、不倫をされたわけでもありません。それでもYさんは、「このまま夫と人生を終えたくない」と熟年離婚を決意します。ところが離婚を切り出した瞬間、夫は「被害者」のように振る舞い始めたのです。長年見て見ぬふりをしてきた夫の本当の姿とは……?
▶▶「離婚するなら財産は全部放棄しろ」熟年離婚を切り出した妻に夫が突きつけた驚きの条件とは
では、30年以上連れ添った夫に離婚を切り出したYさんが直面した現実と、熟年離婚を決意した決定的な理由についてお届けします。



