
昨今、更年期以降の女性の健康や生活の質(QOL)を向上させるための選択肢として、ホルモン補充療法(HRT)が注目を集めています。
「人生100年時代」と言われ、閉経後の人生が長くなる中で、多くの女性が人生後半の生活について不安を抱えています。また、閉経前後の更年期と呼ばれる年代には、ホルモンバランスの乱れから、心身が不安定になりがちでもあります。そこで今回は、日本女性医学学会名誉会員であり、長年にわたり女性の健康管理に携わってきた『ローズレディースクリニック』院長の石塚文平先生に、閉経後の女性がクオリティ・オブ・ライフをより良いものにするための、HRTの新常識についてお話を伺いました。
【シリーズ・40代50代が向き合う更年期/変えられることを変える知識と、変えられないことを受け入れる知恵】#5
■体質的に受けられない人もいるHRT。まずは専門医へ。
適切なホルモン補充療法(HRT)の前に「行うべき検査」の内容とは
――前編では、HRTは閉経後の女性の健康維持に役立つ一方で、体質的に受けられない方もいるため、専門医のもとで適切な検査を受けながら治療を行うことが大切だというお話を伺いました。では、HRTを行う場合、どのような検査が推奨されるのでしょうか?
安全に治療を続けるためには、開始前だけでなく、治療中も定期的に健康状態を確認していくことが重要です。普段から会社の健康診断や人間ドックを受けている方は、その結果を持参していただければ問題ありません。また、すでに持病があり他の病院にかかっている方には、紹介状をご持参いただくこともあります。健康診断を受ける機会が少ない方には、当院では主に次のような検査を行い、全身の状態を確認しています。
1、血圧・身長・体重測定
高血圧や肥満がある場合、HRT中に血栓症のリスクが高まる可能性があります。そのため、日頃から血圧や体重を把握しておくことが大切です。また、身長の変化は骨粗しょう症のサインになることもあるため、定期的に確認していきます。
2、乳房検査
HRTを安全に行うためには、乳がんや乳腺の異常がないかを確認しながら治療を続ける必要があります。1年に1回は、マンモグラフィーや乳房超音波検査などの乳がん検診を受けることが推奨されます。また、月に1回程度、ご自身で乳房に触れ、しこりや違和感などの変化がないか確認する「セルフチェック」も大切です。
3、婦人科診察
子宮頸がんや子宮体がん、卵巣の異常などを早期に見つけるためにも、1年に1回は婦人科診察を受けることがすすめられます。内診や超音波検査で子宮や卵巣の状態を確認しながら、安心してHRTを継続できるようサポートしていきます。
4、血液検査
HRTでは、安全に行えるかを確認するため、半年〜1年に1回程度の血液検査を行います。肝機能や脂質代謝など、全身の状態を確認しながら、安全に治療を続けていくことが大切です。HRTには、プレマリンなどの内服薬のほか、貼り薬(パッチ)やジェル剤など、さまざまな剤形があります。それぞれ特徴や適応が異なるため、年齢や体質、持病の有無、生活スタイルなどを踏まえて選択することが大切です。
ジェル剤は皮膚から吸収されるタイプの薬剤で、塗布部位によって吸収率が変わることがあります。とくに顔など皮膚の薄い部位では吸収量が増える可能性があるため、必ず医師から指示された部位・用法を守って使用する必要があります。
■HRTの治療期間や費用は?
「ホルモン補充療法(HRT)を一度、中段。いつか再開することができますか?」
――HRTを検討するうえで、事前に知っておいたほうがいいことや、よくある質問があれば教えてください。
「ホルモン補充療法を中止したあと、再開できますか?」というご質問はよくいただきます。HRTは、体調やライフスタイルに合わせて途中で中止することも可能です。ただし、長期間中断したあとに再開する場合は慎重な判断が必要です。年齢とともに血管の状態や健康状態が変化している可能性があり、改めてリスク評価を行う必要があるためです。
一方で、数ヵ月程度の短期間の中断であれば、普通問題なく再開できます。再開する際には、血圧や体重、血液検査などで全身状態を確認しながら、医師と相談して進めていきます。通院頻度についてもご質問いただきますが、HRT開始直後は、薬が身体に合っているか、副作用が出ていないかを確認するため、2週間〜1ヵ月ごとに受診することもあります。症状が安定してくると、通院は3ヵ月に1回程度になるケースが一般的です。
また、更年期治療としての保険適用年齢を過ぎたあとも、自費診療で治療を継続することは可能です。自費診療の場合は、半年に1回程度を目安に診察や必要な検査を受けながら、継続していくことになります。費用については、更年期症状がある方の場合、健康保険が適用されるケースも多く、目安は月1,000円〜5,000円程度とされています。一方で、保険が適用されない年齢であっても、体調や検査結果に問題がなければ、70代まで継続している方もいらっしゃいます。ただし、保険適用の年齢や条件は地域や医療機関によって異なる場合があります。また、使用する薬剤や治療内容によって費用は変動します。気になる場合は、診察時にあらかじめ確認しておくと安心です。
■平均寿命が延び、40代、50代はまだまだこれから!だけど……
現代の40代、50代女性が抱える特有の悩みとは
――現代の40代、50代女性は、以前の更年期世代と比べて、どのような悩みを抱えている印象がありますか?
日本人の平均寿命が男女ともに50歳を超えたのは、戦後間もない昭和22年頃といわれています。かつては、閉経後の女性は現在よりも「高齢者」として見られることが多い時代でした。当時は、医学や栄養状態、生活環境も今ほど整っておらず、骨粗しょう症などの影響で腰が曲がってしまう女性も少なくありませんでした。家庭内でも、閉経後の女性は「おばあちゃん世代」としての役割を担うことが多かったのです。
その後、日本人の平均寿命は大きく伸びました。さらに近年は、医療や栄養学の進歩、女性の社会進出などもあり、60代、70代になっても若々しく働き続ける女性が増えています。一方で、現代の50歳前後の女性は、人生の中でも非常に多忙な時期を迎えています。仕事では責任ある立場を任され、家庭では子育てや親の介護など、複数の役割を同時に抱えている方も少なくありません。
そのような人生の転換期に、女性ホルモンは急激に減少します。社会からは「経験豊富で頼れる存在」として活躍を期待される一方で、女性ホルモンによって守られてきた身体は大きな変化を迎えるのです。代表的な症状としては、ホットフラッシュや睡眠障害などがあります。心身の変化と、社会的に求められる役割とのギャップが、自律神経やメンタルに影響を与えてしまうケースも見受けられます。
■40代・50代女性がエネルギッシュに活躍するために
発展が期待される、更年期以降の女性医療
――より長く女性がエネルギッシュに活躍できるようにするためにも、適切なHRTを含めた更年期以降の女性医療には、大きな意義があると言えそうですね
そうですね。閉経後の女性が「まだ働きたい」「社会と関わっていたい」と思っていても、健康上の問題によってそれが難しくなってしまうことは、ご本人にとっても、社会全体にとっても大きな損失だと思います。近年は、更年期以降の女性の健康維持についての研究も進んでおり、今後はHRTを含めた女性医療の選択肢も、さらに広がっていくのではないでしょうか。適切にHRTを行える医師も、今後ますます増えていくと思います。
繰り返しになりますが、ホルモン補充療法を安心して続けるためには、信頼できる専門医のもとで、定期的に身体の状態を確認しながら治療を行うことが大切です。更年期医療に詳しい医師を探したい場合は、日本女性医学学会の専門医制度による認定医を、公式ウェブサイトで検索することもできます。
少子高齢化が進むなか、女性が年齢を重ねても心身の健康を保ちながら、自分らしく働き、社会と関わり続けられることは大きな意味を持ちます。更年期医療は、その土台を支える医療のひとつとして、今後ますます重要になっていくのではないでしょうか。
>>この記事の前編:閉経後の健康寿命を支えるHRT最前線。人生100年時代、女性の体に起きる変化とどう向き合う?
お話を伺ったのは
石塚 文平 先生(ローズレディースクリニック院長)

プロフィール
ローズレディースクリニック院長。聖マリアンナ医科大学名誉教授。昭和大学医学部卒業後、慶應義塾大学産婦人科、 カリフォルニア大学留学をへて、聖マリアンナ医科大学産婦人科教授、同大学生殖医療センタ一長、同大学高度生殖医療技術開発講座特任教授を歴任、2014年に同大学名誉教授、同年口ーズレディースクリニック院長に就任。早発卵巣不全の研究と治療に長年とり組み、日本国内のみならず、海外からも患者が訪れる。https://roseladiesclinic.jp/



