
体調ナビゲーションサービスRizMo(リズモ)の「プロダクト側」は、コンセプトデザインから実際のものづくりまでを4人が担務した。
いつものパナソニックであれば性能第一の質実剛健な開発となっただろうが、今回はある意味で真逆。#2でアルゴリズム設計者が「生体データのあまりの幅広さ」に苦しんだことと同様、プロダクトも「直感的な好き嫌い」でユーザーが離れる可能性を抱える。一筋縄ではいかないことが明らかだった。
【RizMoを作った12人】#3
心地よく自分と向き合うことを色と形で表現する。そこに生まれたデザインの葛藤とは

パナソニック株式会社 デザインセンター ビューティデザイン課 松永春香氏
「白」と呼ばれる色はただ一色だけのように思えて、人が識別できる「白っぽい色」は数万通り以上ともいわれる。RizMo本体の色を「わずかに体温を感じる」あいまいな白に定め、卵のようなころりとしたデザインに仕上げたのは、入社11年目のデザイナー・松永氏だ。コロナ禍には北米発売のボディシェイバーを手掛け、現地ランキング1位にまで押し上げた実績を持つ。
「私は美容やファッションが大好きで、美容家電を手掛けたくて入社し、念願かなって美容健康にかかわる家電をずっと担当してきました」
こう語り始めた松永氏はさらに続ける。
「このプロジェクトが始まった時期はフェムテック黎明期、世界的にも女性が自分の心と体に向き合い直し、『美しさとは何だろう』と見直す時代の転換期だったと思います。当時、私も外見だけの美しさだけではなく、コンディションを整え、内側から美しくなるためのウェルネスブランドを提案していました。すると、『かなり近いコンセプトのプロジェクトが走っているからリーダーの話を聞いてみないか』と声がかかり、図師に会うことになりました」
よくも悪くも、女性の外見的な美しさの指標の一つに体重がある。が、女性には周期的な体重の増減があり、また感情や不調の波も押し寄せる。何キロならば痩せていて美しい、何キロならば太っていて美しくないと、数値で判断する世界を終わりにしたいというのが松永氏の思いだった。周期的な波のリズムを可視化すれば、自分に起きる変化を許容する手助けになるのではないか。

「女性が自分の体と心地よく向き合うため、こうした波を捉える体重計を構想していました。RizMoも同じように波を可視化する機器ですが、重要だったのは波の仕組みではなく『女性は波を知ることで心地よく過ごせる』という思いの部分が共通した点です。すぐにプロジェクトへの参加を了承しました」
このとき図師氏が語った世界観は「クレイドル」だったという。卵(ラン)をゆりかごのように守り育てる機器にしたい。真珠を守る貝は無機質でありながら生命の有機的な優しさを併せ持つ。こうしたイメージを一つ一つ言語にして確認しながら、細部まで丁寧に詰めていく仕事が始まった。
「いい意味で家電らしさを感じない、愛着を持ってもらえる形にしたい。では『愛着』とは何なのか。一つは『ノイズがないものに対して持つ好感』でしょう。ですから、ころんとかわいい第一印象のあと、表から見た違和感がないようノイズ要素をすべて内側に隠すことにしました。クリップ、ヒンジは普通に作れば外ですが、機能を感じる要素はすべてノイズとして隠してもらう、それでも機能が成立する形を考えます」

ここでもう一つこだわったのが冒頭の「白」だった。実は当初、インテリア、特に寝室とのなじみを考え、肌にもなじむ暗めのベージュのバリエーションも用意した。しかし「おばさんくさい」とコメントされて却下となった。
「これが思いのほか悔しくて。じゃあ、ノイズレスに最適な色とは何なのかを試して試して、あらゆる白の中での最適解を探し続けました。そして、最後に残ったのはパナソニックビューティが使う白の中でももっともスタンダードな、いうなれば『なんの変哲もない白』でした」
この白は、美顔器、スチーマー、ドライヤーにも使われてきたという。つまり、部屋に出しておいてもノイズになりにくい、「空間になじむ白」として実績のある色ともいえる。

「意外かもしれませんが、#FFFFFFの完全な真っ白は、空間に置くととても目立つ強い色です。今回使った少しだけ色味を感じる白は、まさに空間になじんで見えることを大切に、パナソニックビューティが選んだ白。きれいになれる予感がする、心地いいケアができる商品に使われる白です。白に限らず、パナソニックが美容家電に採用するカラーは、微妙な色味の変化を捉えて試作検討を重ね、ユーザーの心を少しでも動かす色を作り出しています。今回も試作品での調査やヒアリングを重ね、この白は性別や年代を凌駕した『すべての人を受け入れてくれる白』だと確信しました」
「外見の美しさだけでなく、自分自身が心地よいと感じられる状態こそが美である」というデザイン定義がここで完成した。いかにそのまま製品へとつなげるか、チームはこのあとそれぞれの苦闘を繰り広げる。
そもそも「気持ちよく開閉できるクリップ」とは何なのか。最適な形を探し出す

パナソニック株式会社 ビューティ・パーソナルケア事業部 ヘルシービジネスユニット ヘルシー商品部 ヘルシー技術開発課 森田芳年氏
コンセプトを完成させたデザイナーからバトンを受けたのは、「ベースモック」を作る技術設計サイドだ。森田氏はアルゴリズム分析の中野氏と同時期にプロジェクトに参加した。データ取得を行う機器として体重計をメインに担当してきた森田氏は、技術継承を受けた「ランズナイト」を参考にしつつ、原理モデルから実際の社内モニターに使用する一次試作モデルまでの設計を担当した。

「松永がビジュアルにこだわるとすれば、私たち設計は操作性とビジュアルの兼ね合いにこだわります。今回でいえば、たとえばクリップの長さの違い、縦横比も、ミリどころかミクロン単位で調整しました」
毎日触るプロダクトなので、見た目の愛着もさることながら、パナソニックとしては操作性のよさもとても重要。最終的には非可動モックを4~5種類作成したという。
「普段ならここまで細かなモック調整は行いませんが、操作性、衣類への装着性、デザイン性に加えてもうひとつ、手触りも重視したところ、そういう結果になりました」

使い続けたくなる使用感とはいったいどのようなタイミングで生まれるのだろう。毎日パジャマのウエストゴムに自分で装着し、朝になれば外すという動作を繰り返す反復性を考え、さまざまなこだわりがある中、代表例としてクリップの操作性にもこだわりを込めた。
「挟んで爽快感のある気持ちよいバネの硬さ」「すっと手から離れるクリップ形状」とは何なのか、どう評価すればよいか。最終的には手触り、開閉の心地、装着感を点数化し、すべてが満点になるポイントを目指したという。
「クリップをつまんで挟むときにぴたりと指が乗るよう、指がかりのへこみをつけたかったのですが、松永にノイズになるからダメ!と却下されてしまいまして。代わりにバネの強さとクリップのつまみの長さ、角度を慎重に検討して、ぴたりと指が乗るよう工夫しています」
通常の開発では考えられないレベルで情熱が注がれているのは明らかなのだが、残念ながら見た目ではまったくわからないのも事実。
「こういうインタビューの場で主張しない限り、お客さまには気づかれることもなくスルーされると思います。ぜひクリップを開閉するときに『気持ちのよさ』を感じてほしいというのが私の願いです」
見えているべきではない電池交換用の穴をどこへ移せるか、ノイズの少ない形の実現のための苦闘

パナソニック株式会社 ビューティ・パーソナルケア事業部 ビューティビジネスユニット ビューティ商品部 フェイスケア商品設計課 井上朋之氏
こうして完成したプロトタイプはこのまま複製されるわけではなく、もう一段階「量産化調整」というプロセスを経る。実際の金型に落とし込んだのち、もっとも人手の必要な製造組み立ての工程に進むにあたり、形状面と日程管理面の両方から合理的な調整を行うのが量産化調整といえる。
「『ここ、なんとかならへんか』と相談を受けた箇所の形状改善も引き受けますが、ただ改善するわけでもありません。同じものを1000個作っても同じように問題なく作れ、かつ安定した品質で不具合が出ない状態を目指して整えていきます。今回ならば森田があるべき姿を実際の形に落とし込む仕事を担当し、それを私が金型に変えて量産につなげるというリレーです」

量産化調整では品質不良を極力少なくすることも要求される。簡単にいえば、ユーザーだけでなく社内外で関わるすべての人たちの満足度を「下げないこと」がミッションと言える。当然ながら「プロトタイプがまったくその通りに量産化される」というわけでもなく、ここでもさまざまなせめぎあいが起きるという。
「今回は試作もたくさん作ってもらい、簡易的な金型もあったので大きな形状変更もなくスムーズに進みました。実際、お金をかけさえすればどんな金型でも作ること自体はできるのですが、コストはどんどん上がっていってしまいます。可能な限りシンプルに調整して、トータルなものづくりを合理化していくのですが、やっぱりここはこうしたいとさまざまな意見も出てくるのです」
井上氏が今回こだわったのは「電池を取り出すための穴を隠すこと」だった。この穴はコイン電池交換の際に使うもので、当初のデザインでは本体の外側から見える位置に作られていた。

「穴は仕組み的につけられる位置が限られます。しかし、せっかくのころりとしたなめらかなデザインならば、穴は見えないほうがより美しい。松永や森田のオーダーはもちろんのこと、個人的にもなんとか隠せないかなと思いました。最終的には見えない位置に調整をつけました。普段はクリップで隠れている位置に穴があり、ここにヘアピンなど先が細いものを差し込むと電池がとり出せます。こうした見えない細部までも美しく整えることで、より愛着を持ってお使いいただけるだろうと考えました。電池を交換する際には思い出していただけるとうれしいです」
これだけ複雑な表示をきっちり整理できた。ノイズレスな仕上がりには大満足している

パナソニック株式会社 ビューティ・パーソナルケア事業部 制御技術部 ヘルシー・アクア制御設計課 吉川元彬氏
これらのいわゆるガワに対して、中身の回路基板を設計したのは吉川氏。組み込み基板の回路設計とプログラムの要件定義を担当している。内部設計はパナソニックのお家芸でもあるが、それだけに要求ハードルが極めて高い。品質を担保しながら前後に関わる全員の要求をすり合わせるのは相当な難関であり、1つ作り上げるのに半年はかかるという。

今回は500円玉大ほどのスペース、操作スイッチ2つという制約の中にさまざまな機能を入れ込む必要があった。すべての動作をカバーし、かつ計測データがスマホアプリに転送されるまでユーザーがわかりやすいように操作フローを考える。
「もっとも効率的な通信タイミング、操作忘れ、誤操作など考える要素は本当に膨大。なおかつ、初期には操作間違いだけでなく、そもそも電源を入れる操作ができない、スマホに送れないなど想定外のトラブルも出ました。続いて、やっぱりデータの転送し忘れが出ることも判明します。最終的に、転送ボタンを押したときに転送されるのは基本として、アプリが立ち上がっていれば、計測開始時や12時間で自動的に計測が止まる際に転送し、転送し忘れをカバーする工夫も組み込みました」

そもそも、吉川氏が担う工程は大きなジレンマを抱えている。機器は基板がないと動かないのに、形状や動作仕様がすべて決まらないと基板の作成に着手できない。なのにテストをするために一番最初に動くようにする必要があるのだ。
「たとえば、LEDランプのどの色をどのように表示させると直感的に『いま通信している』『いま計測している』と理解できるのか。何通りまでの点滅なら違いを認識できるか。普段ならば企画担当者がセオリーに沿って決める部分ですが、今回は膨大な機器の状態をLEDランプ1つで表すとお客さまが混乱してしまうため、こちらからも提案を行いました。伝えたい状態とそうでない状態を整理することで、結果的にはUXを損なわずにあの複雑な挙動をうまく収めることに成功しました」
自分ではこのパッケージングに満足しているが、プロジェクトはユーザーからのフィードバックを受けてまだまだ進化するため、決してこれで終わりというわけでもない、と吉川氏は振り返る。このあと、舞台はデータを受け取りスマホ画面で表示するプログラミングチームに移る。

つづき>>>天気予報のように「軽い気持ちで」体調と接することができれば、自分のしんどさにもポジティブに向き合える。画面に込めた思い



