
ウェアラブル技術による生体情報センシングの研究を15年以上に渡り続けてきた順天堂大学大学院医学研究科創造長寿医学講座 客員准教授 駒澤真人先生。駒澤先生のチームが特に注目しているのは「心拍変動(HRV)」という、自律神経の状態を表すバイオマーカーです。男性更年期対策ツールとして「WellAge」というアプリを開発、運用中の駒澤先生ですが、このHRVを核とした評価は男性だけでなく、女性にも有効とのこと。
前編記事『更年期対策も、仕事能力アップも可能?スマートウォッチ購入を迷う人、ぜひ着目してほしい「HRV(心拍変動)」を専門家に聞きました』では、スマートウォッチをはじめとするウエアラブルデバイスで測定できる指標「HRV」についての詳しい解説を数値の判断について伺いました。
つづく本記事ではHRVからわかるタイプ、その分析を伺います。
「トップアスリートは副交感神経優位」、つまり能力は自己管理でまだまだ伸ばせる?
地震の場合、P波とS波の特徴から震度・被害を分析します。人間の場合も同じで、心拍の波(心拍変動)を分析すると、その人の体調やパフォーマンスがわかるのだそう。駒澤先生が属する順天堂大学のチームはアスリートの自律神経測定も手掛けてきました。たとえば、あるプロ野球チームの全選手の自律神経を測定。なお、この測定には別途専門のポータブルデバイスを使用しています。
分かりやすく、交感神経優位なタイプを「タイプA」、副交感神経優位なタイプを「タイプB」と分類しています。タイプAはHRVが低い傾向、タイプBはHRVが高い傾向にあります。面白いことに、一軍の選手はほぼ全員タイプB、副交感神経優位でHRVが高い傾向だったそうです。
「一軍のスタメン選手は、ほとんどタイプBでした。逆に二軍・三軍の選手は、その傾向が逆で、タイプAが多く、交感神経優位でHRVが低い傾向でした。このように、アスリートのパフォーマンスとHRVとに関連性があると考えております」
「フロー」はアスリートの世界では「ゾーン」と呼ばれる状態で、たとえばトップアスリートが競技に没頭し、時間を忘れるほど集中している状態がこれに近いのだそう。このような状態のときはHRVが高くなると言われております。つまりタイプBの状態です。子どもは基本的にタイプBであり、常にフロー状態で、目の前のことに没頭して時間を忘れるほど遊びます。
しかし、成長過程で脳の前頭前野が発達してくると、他人からの評価が気になり始め、自分自身の軸ではなく他人軸でものごとを考えるようになり、結果だんだんタイプAに近づいていく、と仮説を立てていると駒澤先生。また、タイプAはどうしても交感神経優位でHRVが低くなりがちなので、病気になりやすい傾向があります。がん患者さんはHRVが低い傾向にある、というデータもあるそうです。
もともとこのタイプ分けは、1959年にアメリカの医師であるフリードマンらが心臓病外来の患者に特徴的な行動パターンを発見したのが研究の端緒です。待合室の椅子の前の方だけが酷く傷んでいる傾向を見つけ、これらの患者に共通する性格特性として「タイプA」と名付けました。つまり、このような患者は、待っている間も切迫感があり、イライラしていて常に前かがみになる交感神経優位タイプです。タイプAはタイプBに比べ心筋梗塞の発生率で2.12倍、狭心症では2.45倍も高かったそう。
「他にも興味深い仮説が見えてきています。これまでの測定の傾向から、多くの日本人はタイプAです。特に、勤勉なサラリーマンは総じてタイプAが多く、面白いことにサラリーマン社長もタイプAが多いです。まじめできっちりしている方ほどタイプAになりがちで、ストレスなどが原因で交感神経優位、低HRV傾向。いっぽう、自分の好きな事業をやっているオーナー社長や芸術家、アーティスト、トップアスリートなどは、タイプBが多いのです。恐らく、1日の中でもフローの状態が多く、副交感神経優位で高HRVになるのではと考えています」
現代のストレス社会では、どうしてもタイプAになりがち。そういう場合、自分の状態を把握し、自律神経の状態をうまくコントロールしていくことが大事と駒澤先生。その方法の一つが呼吸法、基本的に、息を吐く時間を長くすると副交感神経モードに切り替わります。もともとタイプAの人であっても、状況に応じてうまく自律神経のモードを切り替えられれば、HRVをコントロールしていくことができるのだといいます。
「トークMCの天才であると呼ばれているある有名なお笑い芸人さんは、この切り替えが非常に上手な方です。あるテレビ番組でリアルタイムに自律神経の測定に協力したことがあるのですが、司会をしている間はタイプAでバリバリ場を回していて、休憩室に行った瞬間、すぐにタイプBに切り替わっていました。この切り替えの上手さが、成功されている理由の一つなのではないかと思います」
社会実装が始まったアプリ「WellAge」で私たちが受け取るメリットとは?
さて、このHRV、多くのスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスで測定されていますから、お手元にある方は確認してみてください。
「簡単に言えば、HRV数値は高いほどよいです。ただ、加齢により低下するため、ある程度、年代毎の基準値があります。アプリでは、この基準値に対してレーダーチャートでスコアを表示するようにしています。基準のラインを少しずつ上げていくように自分を整え、理想的な状態を目指すのが大切です」
何をするとHRVが上がるかは、人によって違うのだそう。たとえば好きなアロマの香りを嗅ぐと上がる人もいれば、就寝前の読書、犬の散歩で上がる人もいます。ウェアラブルデバイスを買って安心して終了にせず、自分がどのようなときにより望ましい状態を保てるのかを探し、自分の体を知っていくことがこれからの高齢化の時代にはとっても重要。
駒澤先生はかつてウェアラブル心拍センサで健常者600名(男性:329名、女性:271名)の24時間のHRVを測定する研究を行いましたが、この際に加齢に伴って交感神経が優位となることを確認したそう。特に40代はタイプAモードになりやすい状況のため、「40代は人生の中で最もストレスがかかる年代?」と仮説を立てています。
もっとも簡単な改善方法は、実は呼吸です。心拍変動のリズムを整えるため、10秒1サイクルで「4秒で吸って6秒で吐く」呼吸を試すとよいのだそう。これを心拍変動バイオフィードバック(HRV-BF)と呼びます。HRVを高め、タイプBモードに切り替えることができます。
うつ病患者11人に対して10週間、HRV-BFを行った海外の研究では、参加者は1日2回10秒1サイクルの呼吸法を計20分間実施しました。結果、うつ症状 が著明に改善し、またセッションが進むにつれて、HRVが有意に増加しました。
アプリでの評価にも注目が集まります。駒澤先生が手掛ける更年期対策アプリ「WellAge」は、Apple WatchやFitbit、Garminなどのウェアラブルデバイスと連携し、主にHRVをキーとして健康を客観評価します。あわせて、男女それぞれの更年期に対応した質問紙(チェックシート)を備えており、自覚症状の面から更年期の状態をセルフチェックすることも可能です。

WellAge画面例・クリックで拡大

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HRVによる客観データと質問紙による主観評価を組み合わせることで、更年期を多面的にとらえられるのが特徴です。日本の製造業は軒並み社員の高齢化、担い手不足という課題を抱えるようになりましたが、HRVを高く保つことは男性更年期、女性ならばPMSや更年期の対策にも大きく関わり、退職や欠勤、生産性低下を減らすことにもつながります。
「第三の体温」としてのHRVをどんどん活用していきたい!
駒澤先生が目指しているのは、男女を問わず誰もが自分自身の力で更年期に気づき、ケアできる社会。そのカギになるのが「HRV」という数値の使いこなしです。これまで日本人は、体温と体重しか測定してきませんでした。年を取り、生活習慣病が気になり始めてようやく血圧を測るようになります。しかしいま、急激にスマートウォッチが普及してきています。ガジェット愛好者の皆さんたちが「HRV」の有用性に気づき始めている局面だと思います。体温と同じように、毎日測っておくべき「第三の体温」とも言えそうです。
「はい、毎日測ることができて、現状および未来の自分自身の健康管理に役立つのがHRVです。HRVをベースに『WellAge』というアプリが人の健康状態を可視化します。HRVをキーにして、日本全体の健康度を高めていき、誰もが自分の手元で自分の健康管理ができる未来を作っていきたいというのが私の願いです」
つづき>>>男女の更年期対策に注目!スマートウォッチの「HRV(心拍変動)」で自分の体調を見るポイントを研究者に聞きました

■駒澤先生のプロジェクトサイト https://well-age.jp/
お話/順天堂大学創造長寿医学講座 客員准教授 駒澤真人(こまざわまこと)先生
順天堂大学大学院医学研究科 創造長寿医学講座 客員准教授。博士(工学)。一般社団法人 Japan Longevity Consortium 理事。一般社団法人 更年期健康経営協会 監事。芝浦工業大学大学院 理工学研究科 客員教授。特定非営利活動法人ウェアラブル環境情報ネット推進機構 主任研究員。2008年、東京工業大学総合理工学研究科卒。2016年、神戸大学大学院システム情報学研究科博士課程修了博士(工学)。人間の生体情報をウェアラブル技術でセンシングする研究に従事。心拍変動(HRV)による自律神経のバイオマーカーに着目し、個人のストレスマネジメントやパフォーマンスを高める研究のほか、工学技術の医療領域への応用に注力している。





