在日コリアンのタクシードライバー、忠男は朝鮮学校の同級生、世一の会社で、風変わりな同僚たちといい加減な毎日を送っている。
フィリピンパブのホステス送迎を日課にしている忠男はある日、新顔のチイママ、コニーに出会う。妙な関西弁で生意気な口を利く彼女になぜか惹かれる忠男は、コニーの留守の間に彼女の部屋に勝手に上がり込んでしまう。そんな中、忠男の同僚たちは続けざまに事件を起こし、タクシー会社は惨憺たる有様になっていた――。
2022年に逝去した崔洋一監督が1993年に発表し、メイン館の新宿ピカデリー2で、当時としては異例となる26週に及ぶ超ロングラン上映を記録、その年の映画賞を席巻した『月はどっちに出ている』。キネマ旬報創刊100周年特別企画「1990年代日本映画ベスト・テン」では第1位に選出されるなど、公開から33年を経たいまなお日本映画史に残る傑作として語り継がれている。
崔監督は没後4年。そして、原作となった自伝的小説「タクシー狂躁曲」を著した梁石日も没後2年を迎えたいま、奇跡的に現存していたスーパー16mmの原盤フィルムからデジタル修復を敢行。デジタルリマスター版として鮮やかに蘇る。マジメで軽薄なタクシー運転手の主人公・忠男を演じたのは、本作で映画主演デビューを果たし、いまなお演劇・映画・ドラマの第一線で活躍を続ける岸谷五朗。
天性の明るさとたくましさを持つ、フィリピンパブで働くホステスのコニーを演じたルビー・モレノは、キネマ旬報ベスト・テンの主演女優賞を外国出身の俳優として初めて受賞した。
さらに、小木茂光、遠藤憲一、有薗芳記、麿赤兒、國村隼、萩原聖人ら、エネルギッシュな名バイプレイヤーたちも集結していることも見逃せない。
プロデューサーの李鳳宇は、本作のデジタルリマスター化にあたり、「この映画を初めて観る人たちは、鮮やかな色のタクシー車両や新宿のネオンの煌めきやオレンジ色の炎を鮮明に記憶するだろう。彼等の映画体験が特別なものになれば、苦楽を共にした今は亡き同志たちに細やかな恩返しが出来るかもしれない」とコメントを寄せる。
プロデューサー 李鳳宇コメント全文私の先輩であり、恩人でもある崔洋一が亡くなって4年の歳月が過ぎようとしている。
そして彼と初めて仕事した「月はどっちに出ている」の原作者である梁石日も2年前に他界した。あの作品の制作に関わったトライアーツの青木勝彦、出演者の金久美子、古尾谷雅人、内藤陳、絵沢萠子はみな鬼籍に入ってしまった。
本作は予算を考慮してスーパー16ミリで撮影した。当時16ミリのネガから35ミリのインターネガを作ってプリントを焼くと、せいぜい10~15本位しか生産出来なかったはずだ。幸いにも映画がヒットしたので35ミリのプリントは延べで30本程度作ったと記憶している。
映写機によるプリント上映は、当然劣化が進むが、2年前に行われたある上映会に立ち会った際、フィルム上映の限界を感じた。そしてデジタル化の判断の遅れを猛烈に悔いた。
ネガからデジタルリマスター版を制作しながら驚いたのは、33年前の登場人物たちが若返ったように活き活きと笑っている。心なしか岸谷五朗の動きが早く見える。足立区の丸正タクシーの古びた営業所が新築のように映っている。そして何よりルビー・モレノが神々しいほど美しく我々を見つめていた。
この映画を初めて観る人たちは、鮮やかな色のタクシー車両や新宿のネオンの煌めきやオレンジ色の炎を鮮明に記憶するだろう。彼等の映画体験が特別なものになれば、苦楽を共にした今は亡き同志たちに細やかな恩返しが出来るかもしれない。
『月はどっちに出ている デジタルリマスター版』は11月27日(金)より新宿ピカデリーほか全国にて順次公開。



