映画監督の小林茂は、性暴力のサバイバーであることを公にしながら活動を続ける1人の写真家との出会いをきっかけに、本作の製作を決意する。大切な友人が、幼少期に受けた性虐待によるPTSDで長年苦しむ姿を見ていたからだ。やがてカメラは、それぞれ異なる痛みを抱えながら生きるサバイバーたちへと向けられていく。
悔恨、怒り、うつ、不眠、解離、自傷、希死念慮。言葉にならない痛みとともに生きるということを、どう映すのか? 長期化する撮影のなかで、小林監督は映画製作の意義を問い、自分自身の過去と向き合う。
幼いころの記憶をたぐり寄せると、そこに戦争の昏い影を背負って満洲から引き揚げてきた家族との日々が浮かんだ。異なる時代、異なる出来事に刻まれた傷は、ときに遠く、ときに近く、響きあうことがあるのだろうか――。ドキュメンタリー映画の金字塔『阿賀に生きる』のカメラマンであり、『チョコラ!』『風の波紋』などの監督作でも知られる小林監督と、撮影の小田香らスタッフ、そしてカメラを受け入れた出演者たちが、撮影開始から完成まで9年の歳月をかけ対話と撮影を重ねながら、本作は作り上げられた。
今回公開された予告編は、「ここに問いがある。映画に何ができるのか」という言葉とともに始まり、映写機を回す小林監督自身の姿、出演者たちの日常の風景や様々な表情、長い時間をともに過ごし撮影を重ねてきた人々が綴られている。
本作が捉えるのは、カメラの前に現れた瞬間だけではない。撮影する側と撮影される側が、ともに時間を過ごし、関係を築き、ときに迷いながら作っていった1本のドキュメンタリーである。
なお、本作を鑑賞した映画評論家や専門家からコメントも到着。映画評論家の三浦哲哉は「近年で最も心を揺さぶられた映画」とコメント。哲学者の永井玲衣は「とりかえのきかない、ひとりの人間が、生きている。そして、ひとりのひとの中にも、たくさんのまだきこえていない声がある」と本作を見つめ、公認心理師・臨床心理士の齋藤梓は「登場する一人一人を、性暴力被害を含めた、それぞれの人生の歴史をもつ“その人”」として描き出そうとする本作の姿勢を評価。
文筆家の蓮実里菜も、「『男性の、それも高齢の映画監督が、どう性暴力被害を撮れるのか?』小林監督は、向けられ続けたその問いを、正面からそっと壊す。溶けきれない人と人の間にある垣根を越えられる唯一のものは、人の姿勢であることを教えてくれる作品」とコメントを寄せている。
『魂のきせき』は10月24日(土)よりユーロスペースほか全国にて順次公開。


