
今年のとある日、西荻窪にある今野書店にて、「褒められなくても生きられるようになりましょう」の刊行を記念したトークイベントが開催。会場には30名のお客様が集まり、さらにオンラインでも多くの方がリアルタイムで視聴するなか、一田さんと、スペシャルゲストのエッセイスト・大平一枝さんとのトークセッションが繰り広げられました。
チケットは早々に完売。それだけ多くの人が、この「承認欲求」というテーマに、自分自身のこととして向き合っている(もしくは見て見ぬふりをしている)ということかもしれません。
同じ昭和39年生まれ、ともにライターとして30年以上のキャリアを持ち、同じ時代を走り続けてきた二人。まさかそうとは思えないですが、共通して「私なんか病」を抱えながら、それでも書き続け、あるとき気づいた「褒められなくても生きられる自分」へ変わるための試行錯誤とそのホンネが、会場に集まった同世代女性の共感を呼びました。
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▶仕事が順調でも「私なんか病」はずっとある同業者同士だから言えること。「私なんか病」と手放すことの難しさ

大平: 一田さんと私、同い年で、会社員を経てフリーランスになったというところも似ていて。ただ、実際に会ったのは割と最近なんですよね。ライター同士って、同じ現場に行くことがないから。
一田: そうなんですよ。同じ現場に二人ライターは必要ないから、同業者とは会わないんですよね。大平さんのお名前はずっと知っていたけれど、会ったことがなくて。最初のきっかけは?
大平: 私が「人生フルーツサンド―自分のきげんのつくろいかた」(大和書房)という本を出したとき、帯の言葉を一田さんにお願いしたんです。ずっと同じ時代を走ってきた人に帯をもらいたいと思って。そこからお食事に行くようになって、もう怒涛のようにしゃべり倒して帰ってくるっていう(笑)。税金どうしているかとか、同業者にしか聞けないことを。
一田: 同業者で心を開き合うって難しいじゃないですか。どうしても、ライバル心があって、手の内を隠しておこうみたいな思いがどこかにあって。でも、この年になったら、もうさらけ出して一緒に歩こうって感じになれましたね。
大平: 知恵や失敗談を交換し合って(笑)。それと、さっき「私なんか病」の話が出ましたけど、私もずっとあるんですよ。私が取材してきた人たちって、何かのジャンルのプロや達人じゃないですか。その方たちの足元にも及ばない私が書いていいのかっていうのは常にある。
一田: 分かります。私も例えば『キッチンで読むビジネスの話』(KADOKAWA刊)という本を出したとき、私なんかがビジネスについて書いていいの?って思いがすごくあって、発売するときは本当にドキドキしました。今なら、「達人じゃない私でもできる」っていう切り口で作れるから、おもしろいんじゃん、って思えますけどね。
皆さんも、「私なんか、あの人と比べて全然劣ってる」みたいなことはあると思うけど、一人一人の人がその人にしかない体験を持っているじゃないですか。「私なんか、全然仕事していない」という人も、毎日ご飯を作り続けるプロだったりする。それを自分で認めてあげないと、力として発揮できないんですよね。
▶大人の承認欲求を手放すコツは「承認欲求」を手放すコツ。趣味のテニスが教えてくれたこと
一田: 私は東京と山梨の二拠点生活を始めたばかりなんですが、東京に帰ってきたらめっちゃ忙しいんです。その中でも、昨日の夜7時から9時までテニスに行ってきたんですよ。
私が下手だろうが上手かろうが、誰にも関係ないし誰も褒めてくれない。だけど、昨日の私より今日の私がうまくなるっていうのがめっちゃ楽しいんですよ。それぐらい夢中になれる趣味を持ったことで、「褒められたい」という承認欲求をちょっと手放せたって本当に思っているんです。
大平: 手放せたんですね、すごい。本に書いてありましたよね。心理カウンセラーの先生に「仕事のことばかり考えていませんか」って言われたと。
私もまったく同じことが最近あって。整体に行ったとき、仕事上のトラブルについて頭の中でずっと考えていて。整体の方が「あれ、おかしいな。60分過ぎると大体寝るんですけど、今日はずっと筋肉が硬い」っておっしゃって、私もピンときて、「そっか、全然仕事から頭が離れていない」って。
実はホームページをリニューアルしたときにデザイナーさんを変えたら、手違いで20年分のブログが消えてしまったんです。2歳から22歳まで、子どもの成長を綴った日記のようなもの全部が。それがもう本当にぽっかりとどこをどうしても復元できないって分かって。
整体に行く8分前ぐらいにそれが発覚して、ずっとその心配ばかりしていたんです。2時間、筋肉が硬いままで、整体の方に「多分深いところに届いていないと思います」と言われたとき、「こういう年の取り方をしているとヤバイぞ」って思ったんです。
一田: 一つのことに囚われちゃうと、ほかが入ってこないんですよね。
大平: テニスのときってスマホを置くじゃないですか。だから、「褒められたい」ということから離れられる貴重な場所なんだと思います。
一田: そうそう、いつもの価値観とは違う場所。いつもの辞書しかないところにいたら、アルゴリズムみたいにどんどん同じところをぐるぐるしてしまいますからね。
>>次回は「SNSの批判に落ち込み3ヶ月ひきずった。60代エッセイストが『他者の評価』から立ち直るために行った場所は【一田憲子×大平一枝対談】」をお届けします。お楽しみに!
◆「褒められたい」病のあなたにぜひ読んでほしい
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『褒められなくても、生きられるようになりましょう』(1,650円(税込)主婦の友社刊)

暮らしに寄り添う文章で人気を集めるエッセイスト・一田さん。
実は、若いころから「褒められる」ことが大好きだったといいます。
「人から尊敬される人になりなさい」と育てられ、期待に応えようと一生懸命に頑張ってきた日々。
けれど60歳を過ぎ、若い頃のように成果や評価を追い続け、「人にどう思われるか」に神経をすり減らす、生きづらい日々は、そろそろ卒業したい……。
でも、これからの人生で、「褒められる」以外に、自分の心を満たすものって何だろう?
右往左往しながらも、「褒められたい」という呪縛をほどくヒントを一つずつ見つけていく、正直で力強い書きおろしエッセイ集です。
誰かの評価に一喜一憂するのではなく、
自分で自分に花丸をつけられる生き方へ――。
■1章 どうして褒められたいの?
「私を見つけて欲しい」から「自分が見つけたい」へ/みんなに人気」の「みんな」って誰?/2本目、3本目の軸を用意しておく
■2章 「褒められる」を卒業するには?
「売れなかったら負け」の世界から抜ける/自分で自分の100点満点を設定する生き方に/「あなた」と「私」の境界線をぼやかし、相手の言葉をすべて「よきこと」として聞いてみる/褒められなかったときに、心の静寂を取り戻す方法を知っておく
■3章 小さく心が満たされる日々を
暮らしの中の「心地よさ」を設定すれば、自分で自分に花丸をつける日がやってくる/人生の本筋にあるものよりも、脇道にあるおいしそうな香りのほうが、ずっと大切な記憶になる
■4章 褒められなくたってへっちゃら
自分が今、尊敬できる人を思い浮かべてみたら、「みんなに褒められている」人じゃなかった!/「褒める」「褒められる」を、上質なコミュニケーションに格上げする など
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一田憲子(イチダノリコ)
1964年京都府生まれ。編集者・ライター。OL、編集プロダクション勤務を経てフリーライターとして独立し、女性向け雑誌・書籍などの取材・執筆で活躍。暮らし、おしゃれ、仕事、人間関係、年齢の重ね方などについての、日常の中の揺らぎや気づきを丁寧にすくい取る文章で、幅広い共感を集める。『暮らしのおへそ』『大人になったら、着たい服』(ともに主婦と生活社)を立ち上げ、イベントも開催。『最後の答えは、きっと暮らしの中にある。』(内外出版社)、『小さなエンジンで暮らしてみたら』(大和書房)など、著書多数。自身のWebマガジン『外の音、内の香』では、さまざまなコンテンツを配信。ライター塾を主宰し、「書く暮らし」の楽しみを伝えている。
大平 一枝(オオダイラカズエ)
作家、エッセイスト。1964年、長野県生まれ。編集プロダクション宮下徳延事務所を経て、1995年、独立。市井の生活者を描くルポルタージュ、失くしたくないもの・コト・価値観をテーマにしたエッセイを執筆。著書に『それでも食べて生きてゆく 東京の台所』『ふたたび歩き出すとき 東京の台所』(毎日新聞出版)、『男の女の台所』『ただしい暮らし、なんてなかった。』(以上、平凡社)、『注文に時間がかかるカフェ たとえば「あ行」が苦手な君に』(ポプラ社)『そこに定食屋があるかぎり』(扶桑社)「ある日、逗子へアジフライを食べに」(幻冬舎)など多数。



