
「承認欲求」というと、どこか若い人の文脈で語られがちです。大人だって人間が熟しているように見えて、心の中は「褒められたい」が渦巻いている人は案外多い。と、他人事のように書いていますが、この記事を担当している47歳編集部Tもその一人。常に「褒められたい」マインドで馬車馬のように働き、その欲が強すぎるがあまり、生活を疎かにして体調を崩したことも。
休日に立ち寄ったブックフェスで、「生きづらさ」をテーマに選書された一角に、一田憲子さんのエッセイ「褒められなくても生きられるようになりましょう」を見つけました。(恥ずかしくて誰にも話したことなかったけど)自分だけじゃなかったんだ、と嬉しくなり、自分のための本だと思わず手に取りました。
そして今年のとある日、西荻窪にある今野書店にて、「褒められなくても生きられるようになりましょう」の刊行を記念したトークイベントが開催。会場には30名のお客様が集まり、さらにオンラインでも多くの方がリアルタイムで視聴するなか、一田さんと、スペシャルゲストのエッセイスト・大平一枝さんとのトークセッションが繰り広げられました。
チケットは早々に完売。それだけ多くの人が、この「承認欲求」というテーマに、自分自身のこととして向き合っている(もしくは見て見ぬふりをしている)ということかもしれません。
人生の折り返し地点にいるオトナサローネの読者世代。半生を振り返って、どこか「生きづらさ」を感じていたら、承認欲求に振り回されて不幸の入口にいる可能性も。その「褒められたい」という気持ちを少しだけ手放すだけで、人生後半がぐっと楽になるとしたら、その方法を知りたいと思いませんか。
同じ昭和39年生まれ、ともにライターとして30年以上のキャリアを持ち、同じ時代を走り続けてきた二人。共通して「私なんか病」を抱えながら、それでも書き続け、あるとき気づいた「褒められなくても生きられる自分」へ変わるための試行錯誤とそのホンネが、会場に集まった同世代女性の共感を呼びました。
▶他人の目が気にならない人も存在する「こんなふうに思うんだってびっくり」。他人の目が気になる人と気にせず生きる人の違い

一田: この本を出したとき、いろんな方に見本誌をお送りしたんですが、お付き合いのあるスタイリストの方から、「こんなふうに思うんだってびっくりして読みました」って言ってくださったんです。いつも送ったらすぐ読んでくれて、一番に感想を送ってくれる方なんですけど。
大平: それは、その方が「褒められなくちゃ」なんて一ミリも思わない方だから、ですよね。
一田: そうなんです。自分がやりたいようにやる人なんですよ。世の中にはそういう人もいるじゃないですか。私はどうしても「褒められたい」って思っちゃうから、「褒められたいなんて一ミリも思わない」という人の思考回路が理解できない。
例えば、インタビューをしていても、生きていて「つまずかない人」っているんですよね。そうすると、ドラマチックに書けないから、「つまづいてくれ」って思ってしまう(笑)。でも、自分の文脈にその人を引き込んで理解するとだめなんだなっていうことが、この年になってやっと分かってきた。その人の文脈の中で理解しないと。
大平: 自著の『東京の台所』(毎日新聞出版)でも全く同じことがあって。
市井の人の台所を訪ねる連載なんですけれど、ドラマが何もない人だっているんですよ。それでも最初の80回ぐらいまでは、起承転結をつけて自分の文脈でその人を理解して、書いていたんです。ところが、やはり齟齬が出てきて、ある方に原稿を送ったとき「大平さんにとって、私ってこんなかわいそうな人なんですね」って言われて、今でもトラウマになっているんです。
取材した日がゴールだと思っていたんですけど、人生ってそのあとも続く。それに気づいてから、「何回訪ねても答えは出なかった、でもそれでいい」って思えるようになったんです。人生はその先も続くっていう終わり方でいいんだって。
一田: 結論づけたり、意味づけたりしなくても、そのままでいいってことね。私も、何回も取材でお会いしている明るい人柄の奥さんに、全然違うテーマで取材をしたときに初めて、お母様との関係が悪くて、心理的にも落ち着かなくて病院に通っていると聞いたんです。
何回も訪ねていたのに、全然知らなかった…。取材のときに知る、その人自身って、本当に氷山の一角でしかないんですよね。
大平:それを知ったうえで書いたら、選ぶ言葉が全然違うんですよね。
▶Xのアプリはホーム画面から消しましたテレビに出たあと、くよくよする。Xのアプリはホーム画面から消した
一田: テレビに出られた時に、Xでちょっと嫌な書き込みを見てしまったとか。
大平:ありました。3、4分の短い出演時間だけど、「大平さんって、自分の持っていきたい方向に話を強引に持っていく人なんですね」と書かれて。そんなつもりはまったくなかったのでショックで、3か月ぐらいずっと引きずって落ち込んで。Xをスマホのアプリから消したんですよ。あの黒のXっていうアイコンを見るだけで心臓が痛いから(笑)。それで消したと思われると悔しいから、アカウントは残しているけどね。
一田: それは落ち込むよね。
大平:でも「残り少ない人生を他者の価値観に一喜一憂しているのはバカバカしい」って、4か月目ぐらいに気づいて。
一田: そういうときって、どうやって再び上がるんですか?
大平:お酒!(笑) 下北沢のバーに行くんですけど、そこでは皆肩書きも知らなければ、共通の知り合いもいないじゃないですか。下の名前で呼ばれるの、お互いにフルネームも漢字も知らないから「かずえさん」みたいな感じで。みんなどこの誰だか知らないの。
そうすると、逆に深い話ができることもあって。3か月後ぐらいに行ったら若い男の子に「あのときかずえさんに助けられました、アドバイスしてくれて」って言われることもあって。そういうサードスペースが、自分を生かす術として大事だなって思いましたね。
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