片山氏の意見からみる「生活保護問題」
社会
ニュース
野党・自民党の片山さつき参議院議員は、参院総務委員会で、ホームレス支援をしているNPOを名指しして、「貧困ビジネス」だと批判。批判の内容は、事実誤認によるものでしたが、NPOの関係者は「これまでも(ホームレス支援については)、生活保護の受給者を増やすな、支援するな、といった批判はありました。今回(の一連の生活保護バッシング)も本質的には同じ。正論は言い続けなければいけない」と話しています。
片山議員が参院総務委で生活保護問題を取り上げたのは6月14日でした。片山議員が「課題」としてあげたのは不正受給と扶養義務。不正受給については、生活保護問題に取り組むすべての人が一致しているところでしょう。片山議員がいうように、国民の信頼が大切なのです。
もう一つの扶養義務については、賛否両論です。貧困家庭に育ったが、その環境の中から自立していった場合を想定しましょう。自助努力を基本とするのなら、子ども世帯が援助するということになります。自民党はこれまでもこうした考え方が基本で政権運営をしてきました。しかし、そうなった場合は、貧困の連鎖がうまれ、貧困状態から抜け出せないのではないか、と指摘されています。それをふせぐため、冨の再分配を行なって、貧困家庭を援助するといった考えもあります。
また、片山議員はNPO法人「ほっとポット」が取り組むホームレス支援を「貧困ビジネス」だと批判しました。理由としては、「プロとしては認められていない、位置づけがはっきりしないNPO」だとしています。しかし、「ほっとポット」のスタッフは「社会福祉士」で、国家資格の専門職です。相談援助業務を行なう資格があります。にもかかわらず「グレーだ」としています。
厚生労働大臣の諮問機関で社会保障審議会の「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」の委員に、「ほっとポット」の創設者で、現在はNPO法人「ほっとプラス」の代表理事を務める藤田孝典さんは、「社会福祉士は法によって定められたもので、片山議員の勉強不足」としています。
社会福祉士は社会福祉分野、医療・保健分野の相談業務だけでなく、最近では教育分野でも活躍の場を広げています。ただ、ホームレス支援に関しては明文規定がなく、準ずる法律で適用しているのが現状です。「法的根拠が明確ではないこともありますが、支援の工夫で出て来たのが現状の取り組みです。すべての試行錯誤がダメなのか。内容が不適切だというのなら、根拠を示すべき」と述べています。
片山議員が「貧困ビジネスだ」とする理由は、生活保護受給者からお金をもらっていることを指しています。その金額の根拠について、藤田さんは、「一般的な社会福祉士の訪問支援料で、年間で3回訪問した人件費と交通費を想定しています。実際には、3回以上も訪問をしており、事実上、持出しになっているのです。サービスの利用者が契約内容がおかしいと思うのなら、解約することも可能。しかし、その後も生活を支えてほしいとの声が多い」と話しています。
高齢者だけが増えているだけではなく、若者が増えていることも片山議員は問題にしています。これについては藤田さんは「たしかに稼働年齢層の受給が増加。しかし、それはこれま窓口で追い出していたからで、適正になってきている。日本の資産調査は世界一厳しいと言われている」としています。
こうした事実誤認による議論はなるべく避けてほしいと思っています。また、社会保障の枠組みをいじるときに、世論に流されて、短期的な制度改正は避けてほしいのです。ただ片山議員の主張で同意できるのは、「ケースワーカーの増員」。ひとりのケースワーカーが150~180人の受給者を担当している自治体も少なくないといいます。「社会的コストがかかっても、公平性があるほうが社会が強くなる。倍増に」といっているのも同意できます。これまでケースワーカーの増員を口にする自民党員は聞いたことがなかったように思います。ぜひ、これは実現してほしいものです。
また、これらの議論で見過ごさされがちなのは、生活保護から自立へ向いたときの新たなリスクです。現在の日本では、生活保護から抜けると、一挙にサポートがなくります。こうしたときに、何もなくなれば、再び生活保護に戻るか、自殺へ至るか、犯罪をして刑務所に行くかの選択肢しかない、と藤田さんは指摘しています。
これからは伴奏型の支援が必要です。生活保護が切れても、緩い繋がりが必要です。生活保護は、支援のツールでしかないのです。
[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中]
《NewsCafeコラム》