誰もがアクセスできる「闇サイト」は規制できないのか?
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インターネットの呼びかけがきっかけで事件が起きると、報道では「闇サイト」という言葉が使われます。そもそも「闇サイト」という言葉が出て来たのは2005年頃。読売新聞は10月3日付夕刊で、「"闇サイト"には、管理者自身が違法な商売目的などで開設したサイトと、利用者が犯罪行為を呼び掛けたり、利用者同士で犯罪情報を交換し合ったりする掲示板サイトなどがある」と記していました。
今回の事件は、掲示板に呼びかけ人の会社員Aが「一緒に仕事をしませんか?」などと書き込み、無職のBとCが応じたことが始まりでしたが、誘拐計画が最初から明示されていたわけではありません。これまでの報道では、初めて会ったときにAが誘拐計画をもちかけた、とされています。となると、掲示板でも、その後のメールのやりとりでも、犯罪行為を呼びかけも、情報交換もしていません。
2007年の名古屋OL殺人のときも、書き込み主が「ムショ出てから、派遣で生活していますが、実に馬鹿馬鹿しい。組んで何かやりませんか?」と書き込んでいました。しかし具体的な犯罪計画は、出会ってからでした。今回の誘拐事件と同じ構図で、さきほどの読売の記述にはない形です。つまりは、「利用者が出会った結果、犯罪行為を呼びかけ、参加者がその計画に同意し、実行するきかっけになるサイト」と言えばよいかもしれません。
そもそも「闇サイト」と言えば、簡単にはアクセスできないイメージを持ってしまいます。しかし、誰もが簡単にアクセスできます。この手のサイトで最も有名になったのは「闇の職業安定所」です。もともとのサイトは閉鎖されてしまいましたが、同名で検索すればたくさんのサイトが出てきます。また、「闇の職業安定所」も、もともとは仕事探しの掲示板です。ネット上で仕事を探していると、キーワードによってはたどり着くのです。その意味では、身近なサイトであるのかもしれません。
「闇サイト」での求人募集は、典型的なものは、予め仕事が決まっているものが多いです。とはいえ、詐欺まがいの書き込みも多いし、やりとりをしている中で、違法かどうかがわかることが多くなっています。一方、今回の誘拐事件では、予め仕事の内容がわかっているわけでも、書き込み段階で、どのくらいの収入が保障されるのかがまったくわかりません。その意味では、仕事の存在の有無がわかりません。
闇サイトを取り締まれないのか?という声も聞かれます。もちろん、書き込む事自体が違法性が問われるものがあります。たとえば、わいせつ画像や児童ポルノ画像のURLを書き込みだけでも違法性が問われます。また、薬物の売買も、広告規制という名目で取り締まりの対象となります。しかし、表現の自由の観点から、「一緒に仕事をしませんか?」という書き込み自体を規制はできません。また、そのメールのやりとりがどうなされているのかは、通信の秘密の観点から捜査はできません。
仮に犯罪相談のやりとりを事前に把握できたとしても、飲み屋での「あいつ殺しちゃおうぜ」と話しているようなものなのか、真剣な犯罪実行計画なのか、判断が難しいですし、犯罪計画が本当だとしても、なにか具体的な行為が起きなければ、犯罪がないのと同じです。
もちろん、加害者にならないためには、非公式の求人・休職の情報にアクセスしないことです。しかし、なにが犯罪で何が犯罪でないのか?ということを多くの人が細かく知っているわけではありません。そのため、SNSのつながりで犯罪が実行される場合もあります。
また、誰もが被害者になりえます。今回の誘拐事件でも、誘拐のターゲットにされた理由は、その子だからではなく、お金がありそうであれば誰でも良かったのです。かといって、リスクがあるからといってインターネットをなくすことは、今の社会が成り立ちません。闇サイトだけを取り締まることも事実上、できません。私たちのインターネット社会は犯罪とつながるリスクを抱えている。そのことを自覚しながら、利用していくしかないのです。
[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中]
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