
こんにちは。神奈川県在住、フリーライターの小林真由美です。ここ数年のマイテーマは「介護」。取材でも高齢者にまつわること(介護のほか、終活や相続・遺言など)に関わる機会が増えてきましたが、どこか他人事でした。それがしっかり「自分事」になった途端、驚くほど冷静さを失ってしまったのです。
【アラフィフライターの介護体験記】#29
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▶「席を取られた!」をきっかけに、困った事態に発展
「田舎に帰りたい」が止まらない義母。認知症による「帰宅願望」とは?

3年ほど前、脳神経外科にて「認知症」(軽度~中等度)という診断を受けたお義母さん。現在は、我が家の近くにある<サービス付き高齢者向け住宅>(サ高住/食堂付き)で暮らしています。
認知症は緩やかに進行中ですが、今のところ食事と歯磨きや洗面、排せつは(一応)1人で行うことができ、入浴や着替え、服薬、掃除、洗濯は訪問介護サービスにて一部介助をお願いしている状態です。
今回は、今や年末年始の恒例(?)ともなった、お義母さんの「帰宅願望」(※)についてお話しします。
(※)認知症が原因で起こるBPSD(行動・心理症状)の一つで、「家に帰りたい」と言ったり、自宅や施設を出ようとしたりする行為。家とは実際の住まいだけでなく、実家や故郷、親しい人そのものを意味することもある。
現在、<サ高住>で暮らすお義母さんにとっての「帰宅」は、「田舎に帰ること」。以前「食堂に行ったら、自分がいつも座る席が取られていた」(座席は自由ですが、皆さんそれぞれ定位置があるよう)をきっかけに、「きっと私は邪魔者なんだ」という発想に至り、そこから「田舎に帰りたい」と言い続けるように……!
このように、「帰宅願望」の根底にあるのは「不安」。介護ヘルパーの資格を持つ叔母曰く、「今の環境にある何らかの『不安』を取り除くこと、そのためにも一度ゆっくり話を聞いてあげることが大事」とのことでした。
しかし年末年始に限っては、「不安」の有無にかかわらず、お義母さんの「帰宅願望」はしっかりと現れます。理由としては~、
●デイサービスが休みに入るので、1人で過ごす時間が増え、「退屈だ。何でこんな所に1人でいるんだろう。そうだ、田舎に帰ろう」となる。
●テレビや新聞などで見聞きする「ふるさと」「帰省」のワードに刺激を受ける。
●時間があるので、田舎の友人と長電話。「早く戻って来なさいよ」と言われ、帰ろうと思うようになる。
確かに長年住んでいた田舎は、お義母さんにとって大切な場所であり、懐かしむ気持ちも分かります。だから「田舎に帰りたい」と言い続けるのであれば、「うん、うん」と聞いていればいい。当初は、夫も私もこんな感じで乗り切れると思っていましたが、「帰宅願望」と同時に始まるのが「拒否」。これが、なかなか厄介なのです。
▶「入浴」「病院」のイヤイヤがおさまった意外な方法
介護のプロ考案!あらゆる拒否がピタッと止んだ意外な方法

前回は、昨年末から年明けにかけて「入浴(洗髪)」「デイサービス」「病院(通院)」の拒否が一気に訪れ、それがけっこう長引いて、ついには食事(食堂)以外は部屋から出ず引きこもり状態に。
さすがに入浴拒否が続き、「なんか臭う……」と体臭も感じるようになったので、夫が「年が明けて何日も経つんだから、お風呂ぐらい入ったら?」と言うと、突然怒り出す始末(涙)。
さらに数日後、お義母さんのもとを訪ねると、部屋中に洋服が散乱していました。「田舎に帰るから引っ越しの準備中なの。気にしないでちょうだい」と言いながら、イライラしたり、そうかと思えば急に涙を浮かべたり……。最終的には、「『田舎に帰る』を実行するしかない」(夫か私が付き添い、何日か宿泊)との結論に。
実家はすでに引き払っているため、帰る家はありません。お義母さんも一応理解しているようですが、「どこに帰るの?」と聞くと、「(親戚の)○○ちゃんの家か、友だちの家。皆、私に『いつでもおいで』って言ってくれてるよ」と、そこはポジティブに考えていて一切不安はないようです(汗)。
その後も続く入浴拒否に困り果て、ケアマネさんや叔母に相談したところ、「一度田舎に行けば、気持ちが落ち着くかもしれない。ただ、せっかくなら『田舎に帰る』を利用し、入浴や病院への通院を受け入れてもらおう」と、ちょっとした作戦を試みることになりました。
夫:「田舎に帰るなら、いつ頃がいい?」
義母:「帰りたい!今すぐにでも帰りたい!」
夫:「分かった。まずは(親戚の)○○さんの所に行こう」
義母:「そうね。○○ちゃんの家にしばらくお世話になるわ」
夫:「じゃあ○○さんに会うなら、その前にお風呂に入って髪の毛も洗わないと! あと、しばらく帰れないから、薬をもらいに病院に行こう」
義母:「うん……分かった」
こんな感じで、無事に「入浴」「病院」を受け入れてもらうことに成功! そして数日後「田舎に帰るなら一度デイサービスに行って、皆さんに挨拶を」と連れ出すと、(デイサービスの)送迎車から、「待ってたよ~」と利用者の方に笑顔で迎えてもらいご満悦。現地でも楽しくゲームやレクレーションに参加し、気が付けば「帰宅願望」はすっかりなくなっているようでした。
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