
気力が湧かない。人生が楽しく感じられない。でも、うつ病と診断されるほどではない。そんな状態に心当たりはありませんか?精神科医Tomy先生によると、こうした“病気とまでは言えない心の不調”を抱える人は想像以上に多いといいます。
本記事では、Tomy先生の著書から、現代人が陥りがちな「うつ未満」の正体と、そのモヤモヤとの向き合い方を紹介します。
※本記事は書籍『うつ未満 。 「大丈夫」と言えない日の相談室』(精神科医Tomy)から一部抜粋・編集したものです
その「モヤモヤ」に名前をつけましょう
まず、ご注意ください。よくタイトルを見ていただければわかると思いますが、本稿で取り扱うのは「うつ病」ではありません。「うつ未満」です。
ちなみに「うつ未満」という言葉は、本来、精神科医は使いません。アテクシたち精神科医も、医者の一種ですから、患者さんに対してはきちんと「診断」し、必要があれば適切な「治療」を行う義務があるのです。
診断では、「正常」なのか「うつ病」なのか、あるいは「うつ状態」なのか、ちゃんとした基準に基づいて臨床所見を評価します。
現場では「うつ未満」という曖昧な言葉は、正式には出てこないのです。でも、日常では「うつ病」でも「うつ状態」でもない状態を指す「うつ」が、すごく自然に使われていますよね。
例えば「私、最近うつ気味なのよ~」とか「なんかうつっぽくてさぁ」って、友達同士の会話で普通に出てくる。一般の書籍や雑誌、SNSでも、この「うつ」という言葉は頻繁に登場します。
そこでアテクシ、よーく考えてみたのです。つまり、医学的な診断とは別の次元で、この「うつ未満」という言葉には、確かなニーズがあるんじゃないかしら、と。そこで精神科医としてあえて挑戦してみることにしました。
医学の枠を超えて、ファジーな「うつ」について、率直に書いてみようと思ったわけです。しかも、ただの理論じゃなくて、実際に「うつ未満」だと思う方々から寄せられた沢山のお悩みを集めてきました。
このお悩みの中には、本物の「うつ病」の可能性が隠れているケースもあるかもしれません。でも、そこはしっかり見極めてフォローしつつ、みんなが感じる曖昧な「うつ未満」の本質に迫ってみようと思うのです。
本稿の「うつ未満」の定義
その前に、医学的な定義から外れる以上、ここで扱う「うつ未満」について、アテクシなりに改めて定義しておきたいと思います。いくらファジーな概念とはいえ、定義がないと、何の話をしているのか、わからなくなってしまいますものね。ここでは「うつ未満」をこう定義します。
「うつ病ではないが、気力や意欲の減退が見られ、物事に積極的に取り組めない状態」
たとえば、こんな感じです。
・職場と家との往復だけで、毎日がルーチンみたい。何のために生きているのか、意義が見出せない。
・特にやりたいこともなく、ただ何となく日々を過ごしていて、なんだか人生がつまらない。
・生きていることが、ただの時間つぶしのように思えてくる。
・趣味や生きがいがなく、休日の予定も立てられない。
・将来の夢や目標がぼんやりしていて、モチベーションが湧かない。
睡眠はちゃんと取れているし、体重が急減するほど食欲が落ちているわけでもない。大きなストレスイベントがあったわけでもなく、仕事が急に多忙になったわけでもない。
念のため精神科を受診してみたけど、「特に病気ではないですね」と言われて終わり。でも、心のどこかで「しんどい」と感じている……こういうイメージですね。
実際、こういった「病的ではないけれど、困っている」方々が、精神科の外来に結構いらっしゃるのです。アテクシの勤務先でも、毎日のようにそんなお声を聞きます。
医学的には治療対象にならないことが多く、本人の希望があればカウンセリングを提案したりするけれど、お金や時間がかかるし、本人にその気がない場合は、何もしてあげられないことが多いのですよね。
薬を出すわけにもいかないし、「病気じゃないですよ」ぐらいしか言ってあげられない。そんなもどかしさを、アテクシはずっと感じてきました。だからこそ、この本を書いてみようと思ったのです。
きっと、この本を手に取ったあなたも、心当たりがあるんじゃないかしら?
「私も最近、なんかうつっぽいかも……」って、ふと思い浮かぶような、あのモヤモヤした気持ち。多くの人が抱えているのに、医学書では取り上げられず、自己啓発本でも曖昧にスルーされがち。
そんな「うつ未満」を、アテクシが精神科医の視点から、優しく紐解いてみようと思うのです。
もしかして「人間だけ」が生きづらい?
では、なぜこういった「うつ未満」な状態は発生するのかしら?
アテクシの考えでは、それは「生きづらさ」が言葉になった状態ではないかと思います。アテクシは柴犬と猫を飼っているのですが、彼らは本当にマイペースに生きていて、うつっぽさなんて微塵も感じていないみたい。
ご飯があって、安全な場所があって、好きなときに寝て、好きなときに遊ぶ。それだけで満足そうです。もちろん、基本的なニーズが満たされているからだろうけど、それだけじゃないと思うのです。
彼らは「こうでなきゃいけない」「他人と比べて自分はダメ」「今のままじゃいけないんじゃないかしら」なんて、考えていないから。
でも人間は違うわよね。高度に社会化した現代生活の中で、SNSで他人のキラキラした人生を見て比べてしまったり、仕事で成果を求められたり、家族や社会の期待を背負ったり……。
考えすぎるようになった結果、さまざまな「生きづらさ」を感じ、それが積もって「うつ未満」につながっているんじゃないかしら?
「もっと頑張らなきゃ」「みんなみたいに充実した人生を送らなきゃ」って、自分を追い込んでしまう。でも、本当はそんなに頑張らなくてもいいのに。
動物たちを見ていると、人間って本当に複雑に生きすぎているなって思います。
では、どうしたらこの「うつ未満」な状態が良くなるのかしら? それは、生き方や考え方を少しずつ変えていくこと。何より大切です。日常の小さな習慣や視点のシフトで、心が軽くなるのです。いわば、哲学のようなものね。
アテクシのこれまでの著書でも、多くの方に「心がラクになった」「生きやすくなった」とお声をいただいてきましたけれど、今回は特に、この曖昧な「うつ未満」に特化して、寄せられたリアルなお悩みに答えていきます。
たとえば、「毎日が退屈で、何も楽しみがない」「人間関係が面倒で引きこもりがち」「将来が不安で動けない」……そんなお悩みに、アテクシが精神科医として、でも優しくアドバイスするのです。
きっと、読み進めていくうちに、「あ、私だけじゃなかった」「こう考えたらいいんだ」って、気づきがたくさん生まれるはず。そうして、「うつ未満」の輪郭をはっきりさせて、人生を少しでも楽しく、軽やかに生きるヒントにつながれば幸いです。
ここまでの記事では、「うつ未満」という言葉が生まれた背景とその定義についてご紹介しました。つづく関連記事では、心と身体をケアするために大切な「正しい休み方」について詳しくお伝えします。
つづき>>休日に自己嫌悪しがち…「休む=サボり」と思ってない?精神科医が警鐘を鳴らす、“休み下手”な人の「脳疲労」と「うつ病」リスク
■著者略歴: 精神科医Tomy
1978年生まれ。東海中学・東海高校を経て、名古屋大学医学部卒業。医師免許取得後、名古屋大学精神科医局に入局する。日本精神神経学会認定専門医。精神保健指定医。39万フォロワー突破のX(旧・Twitter)が人気で、テレビ・ラジオなどマスコミ出演多数。著書『精神科医Tomyが教える 1秒で不安が吹き飛ぶ言葉』(ダイヤモンド社)に始まる「1秒シリーズ」は、36万部突破のベストセラーとなった。『精神科医Tomyが教える 心の執着の手放し方』(ダイヤモンド社)の小説シリーズも反響を呼ぶ。『精神科医Tomyの気にしない力』(だいわ文庫)、『精神科医Tomyが教える50代を上手に生きる言葉』(ダイヤモンド社)ほか著書多数。



